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ロミオとジュリエット
第二幕その三

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第二幕その三

「もう黙っていることはできなくなりましたから。分別も何もかもを捨てて」
「僕もです」
 それはロミオも同じであった。
「この素晴らしい夜に」
「ええ」
 二人は頷き合う。
「僕はこれが現実のものとは思えないのです」
「夢だと?」
「そうです、甘い夢に思えるのです」
 ロミオの目は恍惚としていた。
「貴女が僕を愛してくれているなんて」
「ロミオ様」
「ジュリエット」
 それぞれの名を呼び合う。
「けれど今は」
「お別れなのですか?」
「残念ですが。今はこの宮殿を兵士達が見回っていますので」
「だからですか」
「ですが」
 だがジュリエットはここで言った。
「何時の日か神殿の御前で私達が結ばれますように」
「はい、何時かきっと」
「私は貴方だけのものになり」
「僕もまた貴女だけのものとなり」
「全てを貴方にお渡ししましょう」
「僕も貴女に全てを預けましょう」
 二人はそれこそが二人にとっての世界なのだと今感じていた。
「愚かかも知れません」
 ジュリエットはふと思った。
「私は狂ってのかも。けれど」
「それは僕も同じです」
 ロミオも同じことを思っていた。
「ですがまた」
「御会いしたいです」
 二人はまた見詰め合う。
「僕の夜を追い払い、そこに貴女を導きたい」
「私もです」
 二人は何処までも互いを想っていた。
「ですからまた」
「御会いしましょう」
「お嬢様」
 バルコニーの奥から声がした。ジェルトルードの声であった。
「あの声は婆やの」
「お別れですね、これで」
 ロミオはその声に別れの時が来たことを悟った。
「これで今宵は」
「また御会いできますよね」
 ジュリエットにとってはそれが不安で仕方なかったのだ。
「また近いうちに」
「必ず」
 ロミオもそれを誓う。
「御会いしましょう」
「はい、では今宵は」
「これで」
 ロミオはバルコニーの下から姿を消した。
「神様、どうして」
 ジュリエットはロミオが去った後で空しく夜空を見ていた。
「私達をこのような運命に」
 そこにある白銀の月は何も答えはしない。だがその優しい光が二人を照らしていた。悲しい恋をそっと見守るように優しい光で二人を照らしていた。

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