暁 〜小説投稿サイト〜
ナブッコ
7部分:第二幕その二
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第二幕その二

「そうです、それに」
「それに?」
「貴女だからこそ」
「私だからこそですか」
「そうです、貴女はまさしくイシュタルの申し子」
 こうまで言った。
「その美しさと強さ。それこそまさしく」
「左様ですか」
「ですから私は貴女の友でありたいのです」
 彼女はじっとアビガイッレを見据えていた。
「それでは駄目でしょうか」
「いえ」
 アビガイッレはその言葉を慎んで受けた。
「勿体無い御言葉。それでは」
「何かあったのですか?」
「妹のことです」
 彼女は巫女長に問うてきた。
「フェネーナを。どう思われますか」
「フェネーナ様ですか」
「そうです。エルサレムから帰って来た娘を。どう思われますか」
「そうですね」
 ここで巫女長は慎重に祭壇の中を見回した。それでまずは二人の他には誰もいないのを確認した。アビガイッレも同じである。そして誰もいないのを確認し終えようやく話を再開した。
「まず言わせて頂きますが」
「ええ」
 巫女長は真剣な顔で口を開きはじめた。アビガイッレはそれを聞く。
「あまりいい印象は持てません」
「それは何故」
「ヘブライ人のことです」
 巫女長が言った言葉はアビガイッレの予想通りであった。
「フェネーナ様は彼等に寛大過ぎます。あの傲慢なヘブライの神官を宮殿の中に入れておりますし」
 ザッカーリアのことである。彼はフェネーナの許しを得て王宮の中にも出入りしそこでもしきりにヘブライの神の正当性とバビロニアの神々の異端を訴えているのである。
 これがバビロニア人、とりわけ神官や巫女達の怒りを買わないわけがない。当然ながら彼は王宮の中では命さえ狙われている有様である。
「王女様はあの者達に対して寛容過ぎます」
「それでは」
「はい」
 巫女長は答えた。
「到底支持なぞできません。ですから我々は貴女に従います」
「そうなのですか」
「この言葉に偽りはありません」
 こうまで言った。
「何でしたか王女様」
 じっとアビガイッレを見てきた。そして言う。
「これからあの儀式をしますか」
「あの儀式を?」
「そうです。私と貴女であの王の儀式をするのです」
 実はイシュタルの信仰では今の視点から見れば大変奇妙なものがあった。イシュタルの巫女が信者の男と交わるのだ。これはイシュタルが愛と豊饒の女神だからこそはじまったことであり、また王とイシュタルの代理人である巫女長が交わることは神と王の交わり、つながりをも意味しているのである。メソポタミアにおいては非常に重要な神の儀式であったのだ。これが後の世にキリスト教のイシュタル攻撃の根拠になったのであるが。
「如何ですか」
「宜しいのですか?」
「ええ」
 巫女長はこくりと頷いてきた。
「後は貴女次第です」
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ