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フィデリオ
第一幕その三
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 ロッコが彼を出迎えた。後ろにはフィデリオもいる。
「うむ」
 ピツァロはそれに対し傲慢に返した。
「御苦労であった。ところで手紙か何かは届いているか」
「はい」
 ロッコはそれに頷いた。そして手に持っているものを差し出した。
「こちらに」
「ふむ」
 ピツァロはそれを受け取った。そしてそれの表をまず見た。
「まずは紹介状か。そして詰問状」
「はい」
「見たことのある筆跡だな」
 そう言いながら封を切る。そしてその中身を見た。
「これは大臣のものか」
「大臣の!?」
 フィデリオはそれを聞いて呟いた。
「!?ロッコよ、そちらにいる者は」
 ピツァロも彼に気付いたそしてロッコに尋ねてきた。
「最近新しく入った看守の一人ですが」
「そうか」
「フィデリオと申します。お見知りおきを」
「うむ」
 鷹揚に答え手紙に戻った。見ればこの刑務所の囚人の扱いについての詰問状であった。囚人の虐待の噂を聞き、大臣自ら視察に来るというものであった。
「まずいな」
 彼はそれを見て呟いた。そして心の中で思った。
(大臣は今までフロレスタンが死んだものと思っていた。しかしこの刑務所に彼がいると知れば。厄介なことになるな)
 彼はこの時自分の首が寒くなったのを感じていた。大臣とフロレスタンという男の関係について知っているうえでそう思ったのであった。
(ここは一思いに)
 そしてこう思った。
(やってしまうか。思い立ったが吉日だ)
 急に決意を固めた。
(戸惑っていては駄目だな、毒を食らわば皿までだ。よく考えてみると今まで生かしておくこともなかった)
 誰かを殺そうと決意したらしい。
(誰かに任せては駄目だな。私でやろう。私自身で方をつける)
「所長」
 黒服の部下達が彼に声をかけてきた。
「どうした?」
「そろそろ中に入られませんか」
「中に?」
「はい。ここでいても仕方がないでしょうし」
「そうだな」
 ここでようやく我に返った。そして辺りを見回した。

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