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売られた花嫁
第三幕その一
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「君は?」
「僕かい?この村の者さ」
「そうだったの。はじめまして」
「はじめまして。ところで君はヴァシェク君っていうんだね」
「はい」
 ヴァシェクは答えた。
「ミーハさんとこの娘さんと結婚する予定らしいね」
「ええ」
 それにも素直に答えた。なお素直さは時として命取りにもなる。
「けれどあまり嬉しそうじゃないね。どうしてだい?」
「それは」
 彼はここで口ごもった。
「エスメラダ先生と結婚したんだろ、本当は」
「えっ」
 思っていたことを言われてギョッとした。
「何でそれを」
「わかるさ。君の顔に書いてあるから」
「僕の顔に」
「そうさ。君は結婚したいんだろ、先生と」
「はい」
「けれどそれはお父さんとお母さんが反対するから言えないんだな」
「わかりますか」
「わかるさ。僕は君のお父さんとお母さんも知っているからね」
 お母さんと言ったところで彼の顔が一瞬だが歪んだ。しかしヴァシェクはそれには気付かなかった。一瞬であったしぼんやりとした彼には気付かないことであったからだ。
「それでも本音じゃ何とかしたいだろ」
「はい」
「けれどどうしたらいいかわからない。違うかな」
「どうしてそんなことまでわかるんですか?」
「僕は何でも知っているのさ」
 若者はにこりと笑ってそう答えた。
「何でもね」
「まるで嘘みたいだ」
「嘘じゃないさ。僕は君に対しては嘘はつかないよ」
「本当ですか?」
「ああ。だから僕の言うことをよく聞いてね」
「はい」
 ヴァシェクは頷いた。
「お願いします。どうしたら先生と一緒になれますか?」
「それはね。ケツァルさんがいるね」
「結婚仲介人の」
「彼に言うんだ。この村の娘さんと結婚するって」
「けどそれじゃあわからないんじゃ」
「わかっていないね。この村の娘さんだよ?」
「それが何故」
「君はマジェンカと結婚する予定だね」
「はい」
「マジェンカはこの村の娘さんだね」
「ええ、そうですけど」
「そしてエスメラダ先生も。この村の生まれだよね」
「あっ」
 そこまで言われてようやく気付いた。イェニークはそれを見て心の中で思った。
(やはりとろいな)
 しかしそれは心の中だけであった。外見上は冷静にそのまま言葉を続ける。
「これでいいんだ。後は先生をどう納得させるかだけれど」
「それはどうすればいいですか?」
「またケツァルさんにお願いしよう」
「ケツァルさんに」
「そう。あの人にエスメラダ先生のことを頼むんだ。確かあの人もそろそろ身を固めたいと思っていた筈だし」
「都合がいいですね」
「人間の世界ってやつはね、神様に都合よくできているのさ」
 イェニークの言葉は少しシニカルであった。
「要は神様がどう考えて何をしたいの
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