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漆黒の姫君と少年は行く
第0話「少年と漆黒の姫との出会い」
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 天空で淑やかな光を放つ月は非の打ちどころのなく、誰もがその美しさに見とれてしまいそうなほどの満月、その光下で幻想的に映えている森林の奥深くで、満身創痍で最期の時を虚ろな瞳で迎えようとしている少年がいた。
十代前半くらいの少年は動かない身体を無理に抗おうとせず、ただ自分を見守ってくれているような綺麗な満月を見上げていた。

(綺麗な月……)

もうそう長くない生命な事ぐらい、自分が一番理解しているはずなのに、彼はそんな感想を抱いていた。いや、分かっていたからこそ……最期くらいはそんな月を眺めていたいと願っていたのだろう。

「心踊る月夜を楽しむため、ここに参ったのですがまさかここで人間と会おうとは」

その時、頭の方で言葉とは反対に落ち着いた声が響いて来た。視線だけをそちらに移すとそこには一人の少女と一匹の犬がいた。
一言で言うならば、それは黒。髪も、衣服も漆黒の少女。 だがその肌は衣服とは反対に透き通るように白く、瞳は血のように紅い。年の頃は十代半ばといったところか。 そんな少女が、例えるならば雪のように純白の大型犬のような生き物の背に優雅に座っている。

いや、厳密に言えば、とてもではないが犬とは言えない生物だ。 犬というには余りに禍々しい。だが、犬としか形容 のしようのないシルエットをした生き物。

その少女の服装は華やかではあるが、あまり にも軽装に過ぎる。 身に纏っているのは闇の様な漆黒のドレス。 それも露出が所々見える、体のラインを強 調するかのようなデザインだ。 年の頃には不釣り合いだが、妖艶……という言葉がしっくりくるような雰囲気を纏っていた。

「これも月からの祝福。この少年の血でも戴くとしましょう」

そう言うと少女は少年の側に身をかがめる。
しかし、

「クゥン……」
「プライミッツ、どうしたの?」

プライミッツと呼ばれた大型犬は鼻を鳴らすと、少年の元に歩みより、そして顔を舐め始めた。少女はその様子に驚き目を見開く。

「プライミッツが私以外の人に懐くなんて…」

改めて少女は少年を見つめる。彼の瞳あたりで思わず視線を留めてしまう。
きっとこの瞳がプライミッツを惹き付けたのだろう――そう思った。少女でさえ、見るものを吸い込みそうな不思議な瞳に不本意ながら見とれてしまっていたのだ。
少女は唇の端を吊り上げると、少年の顔をじっと覗きこむ。

「どうかしら?あなた、私の所で暮らしてみてはいかが?嫌でしたらここで血を吸い付くして殺してさしあげてもいいのですよ」

断るという選択肢が見当たらないのだが、少年の意識は殆んど無く、そして帰るあても無いので、少女の提案に首を縦に振って肯定を示した。 少女はそれに満足気な笑みを浮かべると、プライミッツの背に少年も乗せ、そのまま森の奥
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