暁 〜小説投稿サイト〜
外伝 ドラゴンクエストV 勇者ではないアーベルの冒険
アリアハンでの事件 前編
[1/9]

[1] 最後 [2]次話
 1 盗賊と提案とテルルさん



「いらっしゃいませ」
アリアハンの中心から少し離れた商店で、働いている少女の透き通る声が小さな店内に響きわたる。
「どうも」
店に入った精悍な顔つきをした男が、あわてて返事を返す。
初めて入店した男の表情は、少し困惑していた。
対応した女性の存在に驚いていたようだ。
男が驚いたのも無理はない。

商店の規模自体は、小さいながらも、アリアハンの住民でこの店の事は知らないものはいなかった。
アリアハン最大の商会「キセノン商会」の本店だからである。
世界各地にある支店を統括する事業所は、隣接する5階建ての建物にあるとはいえ、創業者支配人であるキセノンが勤務している店舗である。
「現場の感覚を忘れないように」と、アリアハン市街地の店舗とは別にひっそりと運営している。

来客はまれとはいえ、通常アリアハンで入手できない貴重な品が陳列されていることもあり、昔からの顔なじみや大富豪など、特別な客には好まれている。
そのような、客を相手にするため、通常は経験豊富な店員が対応するだろうと、男は考えていたようだ。
だが、実際に接客の対応をしたのは、少女とよばれても違和感のない女性だった。
男はこの少女が、大きな商談や、特別な注文の対応ができるとは、とても思えなかったからだ。

一方応対した少女は、来客者の顔を眺めて、今来た客は、初めての来店者だなと思っていた。
少女は、華美ではないが、上質な生地で清潔感あふれる緑を基調にした制服をきちんと着こなし、明るい緑色の丸い帽子を被っていた。
少女は、お得意様と同様の対応をする。
「ご来店いただきましてありがとうございます、本日はどのような商品をご所望ですか?」
優雅なお辞儀をした少女は、失礼の無い程度に男性の瞳を見つめた。
少女の視線の先にある男は、少し困惑した表情をしていた。
男は鍛えられた体をみる限り、歴戦の冒険者に見える。
男の装備品は、皮の鎧等、軽装備であるため、職業は盗賊であることが推測できる。
男は、精悍な顔つきを困惑した表情に変化していたが、瞳の奥にある強い意志は変わらなかった。
男は覚悟を決めて少女に話しかける。

「既製品ではないと思うので、希望した商品が作成できるか教えてほしい」
「かしこまりました、どうぞこちらの席におかけください」
少女は近くにある席を勧める。
「できれば、個室で話をしたいのだが?」
男は、少女に要請する。
「かしこまりました。
お客様、失礼ですがお名前を確認させていただきたいのですが。
私は、キセノン商会本店営業部のテルルと申します」
テルルは帽子を取り、深々と頭を下げる。

帽子をとったため、帽子に隠された銀色の髪飾りによってまとめられた後ろ髪が左右に揺れている。


[1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ