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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission7 ディケ
(9) キジル海瀑 A~ガリー間道
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「どしたの、ルドガー。まだどっか痛い?」

 エルが不安げにルドガーを見上げてきた。

 はっとする。澄んだ翠眼には心配だけでなく、置いてけぼりのような、迷子のような、恐れの色がある。

(何で気づかなかったんだ。もう俺一人の問題じゃない。今の俺にはエルがいる。俺が自分の殻にこもってうじうじ悩んでる間、エルは誰に頼ればよかった? 俺しかいないじゃないか)

 エルはカラハ・シャールのエリーゼを頻繁に訪れていた。こんなにも分かりやすくサインを発していたのに。

(このままじゃダメだろ。ローエンみたいに、気づいてやれるようにならないと。エルはこんな俺を『アイボー』だって言ってくれたんだから)

「大丈夫だよ。もうどこも痛くない」
「ホントに?」
「本当に。エルがずっと呼んでてくれたから、もう、大丈夫なんだ」

 エルは頬を緩めて、マシュマロみたいなやわこい笑顔を浮かべた。ルドガー自身も、きっと自然に笑い返せている。

「兄さん」

 ルドガーはユリウスを見据えた。心臓が強く打って気持ち悪い。拳を固める。前のようにがむしゃらに拒絶したいという気持ちにはならなかった。

「俺に、クルスニクの一族として働いてほしくないってのは、今日のでよく分かった。兄さんが俺のこと、本気で心配してくれてるのも。世界のためとか、精霊のためとか、俺には正直分からない部分のが多いよ。でも、今の俺には、カナンの地に『行く』ことそのものが目標なんだ。一度『やる』って決めた。だから俺、やめないから。エージェントの仕事も、カナンの地を目指すのも。途中で投げたり、しない」

 ユリウスは蒼眸を軽く瞠り、ルドガーを凝視してきた。『オリジンの審判』とやらより兄のこの目のほうがルドガーにはよほど審判だと思えた。それでもルドガーは目を逸らさなかった。

「――本気なんだな」

 無言で確と肯く。

「ずっと子供だと思っていたのにな……いや、俺が思っていたかっただけか」

 哀愁を漂わせていたユリウスだが、その表情を厳しいものに変えてルドガーを見据える。

「『オリジンの審判』は非情だ。およそ人が予想しうるあらゆる惨劇を詰め込んでいる、と評した祖先もいる。それでも、決心は変わらないか」
「ああ」
「――即答か。ここで詳しく聞き返していたら突っぱねてやれたんだが……こうなったらお前は聞かないよな」

 ユリウスは握り拳でルドガーの胸を軽く突いた。開いた手の中から落ちた物を慌ててキャッチする。

「ミチシルベ!」

 白金の歯車の集合体、カナンの道標『マクスウェルの次元刀』。
 今日入手した『海瀑幻魔の眼』と合わせて、これで集まった道標は3つ。

「大切なら守り抜け。何に替えても」

 ルドガーは反射でエルを見下ろした。
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