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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 前編
恐怖の元凶
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良くなるらしいし)

 渋い顔をしながらも納得し、マサキは一度カップを置く。すると、視線の先にあるドアが開き、何やら思いつめた表情のトウマが姿を表した。彼はいつもより少し遅めの歩調でマサキの座るテーブルへと近付き――、だが、いつものように対面に座ることはなかった。テーブルの真横で立ち止まり、真剣な表情でマサキを見下ろす。その爽やかな顔立ちに、最大の不安を映しながら。

「……マサキ、話がある」
「聞こう」
「……パーティーを解消してほしい」

 その一言で、二人の間に流れる空気が一気に張り詰めた。マサキは突然の依願に少しだけ切れ長の目を丸くしたが、すぐに持ち直し、探るような視線をトウマに向ける。

「理由は?」
「……俺は、マサキと一緒にいちゃいけない奴だから」
「抽象的すぎるな。……とりあえず座れ」
「嫌だ」
「…………」

 トウマはマサキの提案をはっきりと拒絶した。ここで座ってしまったら、二度と立ち上がれない気がしたから。
 マサキはカプチーノを飲むことで間を取ろうとする。トウマは震える唇を必死に動かした。

「俺……実はビーターなんだ」

 「ビーター」。トウマが確かに発したその単語が、緊張の糸をちぎれる寸前まで引き伸ばした。立っている足は震え、心臓はいつ破裂してもおかしくないほどに鼓動速度を速め。そして頭の中では、ゲーム初日から色あせない濁声が、延々とリピートされていた。


 トウマの突然の宣告にも、マサキは顔色一つ変えなかった。トウマが不安な表情を覗かせるのは、大抵がビーター、あるいは元βテスター関連の話のときだったため、その辺りにNGワードが潜んでいるであろうことは、もう数日以上前から予測していたからだ。
 ――だが。
 マサキには予測は出来ても、理解は出来なかった。元テスターであることを糾弾されるのが怖いのは分かる。だがそれを差し引いても、彼の怯えようは明らかに想定される範囲を超えている。
 マサキはもう一口カプチーノを口へ運ぶと、不安を全身から放出しているトウマに尋ねた。

「何があったのか、話せるか?」
「……ああ」

 僅かの時間の後、トウマは立ったまま、ぽつりぽつりと話し始めた。


『……以上で、《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の――健闘を祈る』

 僅かな残響を残して、がらんどうの赤ローブが消えた。それは現れたときと同じく唐突で、今起きたことが現実なのか、一瞬判断がつかない。

 ――出来ることなら、夢であってほしい。
 しかし、その願望は、トウマよりも早く現実を認識したプレイヤーたちによって打ち砕かれた。広場のあちこちから上がった悲鳴や怒声が、今目の前で起きていることが紛れもない現実であることを、強
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