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渦巻く滄海 紅き空 【上】
五十 攻防戦
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ダンッと木が撓る。
意識の無い弟を運ぶ姉の顔には焦りの色が浮かんでいた。力強く蹴って枝から枝へ飛び移る。

「降ろせ……テマリ」
不意に耳元で掛けられた声。本選試合にて垣間見せた弟の中にいるモノではない事に、内心テマリはほっとした。

常に何を考えているかわからないと言われているが、それでも我愛羅は大事な弟だ。だが弟の中に潜むモノは自分の手には負えるものではない。人の手には余る代物だ、と彼女はつくづく考えていた。

「動けるのか、我愛羅」
弟の顔色を窺う。一先ず枝上に彼を降ろし、テマリは弟を気遣った。
ようやく意識が戻ったものの、痛みが疼くのか呻く我愛羅。本選試合による負傷は思った以上に深いようだ。

傷の具合を見ようとするテマリを、我愛羅は「あっちへ行ってろ」とにべも無く突き放す。
背後から近づく気配。それも自分に傷を負わせた者だと感づいた我愛羅は、テマリをやや乱暴に突き飛ばした。
その行為は姉に対する弟の不器用な気遣いだったのだが、いつも以上に情緒不安定だったため我愛羅は上手く力加減が出来なかった。

無理矢理突き飛ばされ、大木の幹で背中を強打するテマリ。それをちらりと見遣ってから、我愛羅は追手を待ち構えた。次第に落ち着く息遣い。

ぐっと唾を呑み込み、彼は双眸を閉じた。次に目を開けた時には、貪欲に力のみを求める獣の如き瞳が追跡者の姿を捉えていた。


「…てめえら砂が何を企んでいるか知らないが、」
我愛羅より高い木の枝上。そこに佇む彼は己の試合相手であった我愛羅を強く見返した。
「もう逃がしゃしねえよ」

絶対防御を誇る我愛羅に手傷を負わせた張本人―――うちはサスケ。
我愛羅の砂の円球を崩したその瞬間、垣間見えた瞳。我愛羅でも人でも無かったあの目の持ち主を見極めんと、彼は我愛羅の目を覗き込んだ。

「お前の正体は俺が見定める。覚悟しな」


会場からずっと追い駆けて来たのだろう。カンクロウが足止めしている奴以外にもいたのか、と追手の数の多さにテマリは歯噛みした。
ふと視線を我愛羅に向ける。凍りついた。

(まさかこんな所でアレを目覚めさせる気か!?)


我愛羅の左頬の罅。それは顔だけではなく左半身までに至る。裂け目が入るたびに我愛羅の眼光が強く、より一層獰猛に変化してゆく。

「うちはサスケ…お前を殺せば―――」


名を呼ばれたサスケが眉を顰めた。目前で容姿すら変わりつつある相手の一言一言が彼の緊張を徐々に高めてゆく。
我愛羅の左手がじわじわと、だが確実に、人間のモノから遠ざかっていった。


「うずまきナルト、奴と闘える……ッ!」

歓喜に満ち満ちた眼で我愛羅は嗤った。その左眼は既に人では無かった。





いきなりナルトの名を挙げられ、
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