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アルジェのイタリア女
第二幕その六
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 ムスタファもそれを繰り返す。
「必要ならば何でも誓う」
「必要ならば何でも誓う」
 そしてまた復唱に入った。
「余計なことを喋らず」
「余計なことを喋らず」
「掟に従って宣誓する」
「掟に従って宣誓する」
「パッパタチ=ムスタファ」
「パッパタチ=ムスタファ」
「これでいいです」
 にこりと笑って伝える。
「これでわしもパッパタチの一員か」
「そうです、ここでは飲んで楽しむだけです。何も喋ってはなりません」
「今誓った通りじゃな」
「そうです、食べて飲み」
「だがその前にじゃ」
「何か」
「酒を飲むのじゃろう?」
 そこを怪訝な顔で問う。
「はい、上等のワインを」
「今から一言だけ。喋るのを許してくれ」
「何でしょうか」
「すぐ済む」
 彼はタッデオに言う。
「ならばよいな」
「はい、ではどうぞ」
「済まぬな。では」
 ムスタファは喋ることを許されると頭を垂れてこう述べた。
「アッラーよ許し給え」
 酒を飲むからである。ムスリムは本来ならば酒を飲んではならない。だが飲む場合にはこうしてアッラーに許しを乞うてから飲むのである。信仰心の深い彼はそれを守ったのである。
「それで宜しいでしょうか」
 ムスタファは無言で頷いた。それが証であった。
「では早速」
「このワインを」
「この羊肉を」
「オレンジを」
 山の様な美酒と御馳走をムスタファの前に次々と持って来る。タッデオだけでなくイザベッラやリンドーロ、他の奴隷達もどんどん持って来る。そんな御馳走責めにムスタファは戸惑いながらもそれを受けた。美酒に美食、歌に踊りに溺れていく。その中で彼はエルヴィーラのことを思っていた。
「むむむ、エルヴィーラ」
 酩酊した状態で呟いていた。
「後はそなただけがいればよい」
「御妃様がですか?」
「左様、左様」
 イザベッラの問いにも前後不覚になっているので答えているのかどうかさえわからない。だが言ったことは確かである。
「わしはあれさえおればいいのじゃ」
「そこの言葉、まことですね」
「わしは嘘は言わん」
 こうも言った。
「ずっとエルヴィーラと一緒にいたいのじゃ。他の女なぞ何の興味もない」
「けれどどうして意地悪をされるのですか?」
 今度はリンドーロがムスタファに尋ねた。
「御后様を悲しませて」
「それはあれじゃ」
 まだ飲み食いを続けながら応える。
「何となくな、意地悪をしてみたくなるのじゃ」
「何となくって」
「まんま子供じゃないですか」
「子供っぽくてもいいのじゃ」
 彼はリンドーロ達に返した。
「あれさえ側にいてくれたらな」
「他には誰もいらないと」
「うむ」
 酔ってはいたがその言葉は本心からであった。

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