第一幕その一
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」
「だといいけれど」
「何、旦那様の気紛れはいつものこと。それに」
さらに言うと。
「それに?」
「いつも奥様は御妃様だけ。それを覚えておいて下さい」
「よくわからないけれど」
実はエルヴィーラの夫であるムスタファは妻はこのエルヴィーラだけなのである。四人まで持てるしそれだけの余裕もあるというのに。女好きで知られる彼にしては妙なことだとよく言われている。
「宜しいですね」
「え、ええ」
何が何なのかよくわからないままズルマに応えた。
「貴女がそう言うのなら」
「そういうことです。最後は御妃様の幸せになりますから」
「わかったわ、じゃあ」
エルヴィーラはまだ悲しかったが笑顔を作った。
「笑っておくわ」
「はい」
「御妃様」
そこに別の侍女がやって来た。
「何かしら」
「旦那様が来られましたよ」
「えっ、あの人が」
「笑って笑って」
ズルマが耳元にやって来てエルヴィーラに囁く。
「私が側にいますから。御安心を」
「ええ」
何とか気を保って夫を迎える。するとターバンに絹の贅沢な服とマントを羽織った大きな腹の巨大な男がやって来た。威張り腐った顔をしていて口髭は八の字で顎鬚も油で固めている。どうにも尊大そのものの趣きの男であった。後ろに何人もの従者を従えていた。
「ようこそおいで下さいました」
エルヴィーラは彼に対して恭しく一礼した。この大男こそが彼女の夫ムスタファなのである。
「うむ」
ムスタファはまずは尊大に応えた。
「今日は何用で」
「何用かではないわ」
ムスタファはムッとした顔でエルヴィーラに対して言った。
「昨日のことじゃ」
「昨日の?」
「そうじゃ。共に風呂に入ろうとしたのに」
エルヴィーラを見据えて言う。
「そなただけ侍女達と共に入りおって。おかげでわしは一人寂しく風呂に入ったのじゃぞ」
「それは」
「言い訳は聞かぬ」
彼は子供じみた声で言った。
「いつもそうじゃ。御前はわしを避けておる」
「そのようなことは」
「だから言い訳はいいと言っておるじゃろ」
段々感情的になってきていた。
「今度という今度は許せぬ。汝を離婚する」
「えっ」
「汝を離婚する。次で最後じゃぞ」
「旦那様、それは」
「大丈夫ですよ、御妃様」
真っ青になるエルヴィーラにズルマがまた耳元で囁いてきた。
「次は絶対に仰られませんから」
「けれど」
「ふん」
エルヴィーラは心配したがズルマの言葉通りになった。ムスタファは言葉を止めた。
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