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笑って受け入れる
第三章
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「あんたは殺されるぞ」
「わかったわ」 
 やはり笑って返す坂本だった。
「それはな。わしは都におってはならんか」
「死にたくなければじゃ」
「しかし都におれはことを果たせる」
 逆に言えばそうなる、坂本はこのことも言った。
「そういうことじゃな」
「あんたまさか」
「それならいいきに。わしは都におるわ」
「殺されてもよいのか」
「人は絶対に一回は死ぬぜよ」
 止めようとする老婆への言葉だった。
「そん中には殺されることもあるものじゃ」
「それでいいんじゃな」
「わしのやるべきことがこの国を大きく変えるんなら満足じゃ」
 都にいてそのうえでだというのだ。
「身分っちゅうもんがのうなってあの露西亜を退けて国が守れるんならな」
「そうか」
「ああ、そうじゃ」
 坂本は袖の中で腕を組んでその口を大きく開いて笑って言った。
「それで満足じゃ」
「そうか、そこまで言うんならもう止めても無駄じゃな」
「ああ、わしはそれでいいからのう」
「大きい人じゃな、あんたは」
 老婆はここで坂本の器を知った、そのうえでの言葉だった。
「とてつもなく大きな器じゃな」
「ははは、褒めても何も出んぜよ」
「そうじゃがそれでもあんたは大きいわ」
 坂本は大器だというのだ。
「よく助かりたいから逃げる人はおるがな」
「まあ命あってじゃからな」
「それはあんたもじゃがな」
「果たすことが全部果たせてそれが大きなことになるならそれでいいぜよ」
 坂本にとって命とはそうしたものだった、やるべきことを果たしきるまでのものなのだ。
 ならばそれが果たせればだというのだ。
「わしは満足じゃ」
「では殺される時も安心して死ぬな」
「そうする。後のことは残ったもんがやってくれるわ」
「わかったわ。じゃあ銭はな」
「どんだけじゃ」
「これだけじゃ」
 人差し指、右のそれを出しての言葉だった。
「それでええわ」
「わかった、十両じゃな」
「そんなにいらん、一両じゃ」
 桁が一つ違っていた。
「それでええわ」
「そうか、一両じゃな」
 占いの値としては高い、だが坂本はこのことにも執着を見せていなかった。
 そのうえで坂本の出した一両を受け取って言った。
「これから。頑張りなされよ」
「うむ、まっこと気合入れて生きるぜよ」
 坂本は満面の笑みで老婆に応えた。そして老婆の前を去り。
 身を隠していた武市と合流した、武市は夜の暗がりの中でも晴れやかな坂本の顔を見てそのうえで言った。
「ええこと言われた様じゃな」
「ああ、武市さんにとってもな」
「倒幕は成功するか」
「ははは、それを言ったら面白くないぜよ」
 坂本は武市の今の言葉にも口を大きく開いて笑って返した。
「しかしわしはこのままいっていいわ」

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