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ラ=ボエーム
第二幕その四
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第二幕その四

「何なら僕から言うから」
「そうか」
「彼女はね、僕の前の恋人だったのさ」
 酒臭い言葉でそう言った。
「そうだったの」
「そうさ、けれどあいつは僕を裏切った」
 ワインをラッパ飲みしながら言う。
「おいその飲み方はよくないぞ」
「健康に悪い」
「いいんだよ、そんなの」
 ショナールとコルリーネにもこう返す。
「クソッ、どういうつもりでここに来たんだ」
「ムゼッタだってクリスマスを楽しみたいんだろう?」
 二人はムゼッタの周りをの騒ぎを眺めながら言った。
「クリスマスだし。当然じゃないか」
「あいつにとっては当然でも僕にとってはそうじゃないんだ」
 酒を飲み終えた後で言った。
「おっとと」
 そのムゼッタの後ろに太った初老の男がいた。シルクハットにタキシードで着飾っているがそれがかえって滑稽に見える姿であった。
「やれやれ、こんなに買って」
「クリスマスは買い物をするものよ」
 ムゼッタはその男に顔を向けて言った。
「違うのかしら」
「確かにそうだけれど」
「あれ、あの老人は」
 ショナールは彼に気付いた。
「枢密顧問官のアルチンドーロ氏じゃないか」
「おっ、そういえば」
 ロドルフォもそれに気付いた。
「何だ、彼が今のパトロンか」
「顧問官殿も派手なものだ」
「よおムゼッタ」
 店の客達が彼女に気さくに声をかける。
「元気そうだね」
「貴方達もね」
 ムゼッタは気さくに返事を返す。
「最近見なかったがどうしたんだい?」
「私がいなくなるのはいつものことでしょ?」
「ははは、確かに」
 カルチェ=ラタンの男達はそれを聞いて顔を崩した。
「本当にいつものことさ」
 マルチェッロはそれを聞いて忌々しげに呟く。
「全く」
「しかし顧問官はまた貧乏くじを引いたな」
 ショナールは後ろでひいひい言っているアルチンドーロを眺めながら言った。
「パトロンになるのはいいとして」
 当時の金や地位のある男の義務とも言えることであるからこれはいいのである。
「ムゼッタをねえ」
「あまり評判がよくない人なの?」
「悪い奴じゃないんだが何しろ派手好きでね」
 ロドルフォがミミにそう囁く。
「何かと騒動を起こしてるんだ」
「あの女のことなら僕に聞いてくれないかい?」
 マルチェッロはワインをあおりながらミミに言った。
「僕が一番知ってるから」
「はあ」
「あいつの名前はムゼッタ」
 彼は誰に聞かれることなく語りはじめた。
「姓は誘惑っていうんだ。仕事は風見であちこち振り向く。くるくるとね」
 指を回しながら言う。見れば指まで赤くなっている。
「梟みたいに抜け目がなくて血に餓えている。そして人の心を食べるんだ」
「それじゃあまるで悪魔よ」

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