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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第56話 ハルケギニアの夏休み・宵の口
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 神前に供える為の御膳に乗せた料理の数々を、自らの額よりも高い位置に掲げながら、コルベール先生に保護された少女の目前まで運ぶ俺。
 その俺の出で立ちはと言うと、身体を覆うのは白の狩衣。頭には黒の烏帽子。帯の部分には(イチイ)の笏を挟む。そして袴に関しても無紋の白差袴。
 何と言うか、オマエ、何処の神職だ、と言う雰囲気の出で立ち。

 但し、顔の下半分を覆う白い布が、普通の神職とは違う部分なのですが。

 そして、
 少女の目の前に神の法に従い、正しい順番。正しい方向にて並べる俺。
 その後……。

「御炊きて備える御食は柏葉に」

 ゆっくりと、そして、浪々と紡がれ始める祝詞。

「高らかに拍八平手の音……」

 その瞬間、ゆっくりと打ち鳴らされる八回の柏手。
 そう、それは柏手(かしわで)。天の岩戸に御隠れに成った尊い御方を呼び出す際に打ち鳴らされ、邪気を払うとも言われる神道の(みそぎ)の基本。

「神は聞きませ……」

 この祝詞は、神の前に備える神饌を捧げる際に唱えられる祝詞。
 そう。この祝詞を唱えると言う行為も、この眼前で、まるで意志を持たない存在のように、ただ其処に存在するだけだった少女(魃姫)に神力を取り戻させる為に行う手順のひとつ。

 そして、俺の傍らに控えていたコルベール先生が、俺と入れ替わって少女の傍らに立つ。
 それを見届けた瞬間、俺は、少女の眼前から、ゆっくりと後ずさりをするような感じで、少女とコルベール先生の前から辞した。

 一応、今、考え付く限りの方法は試して見た。これで、この少女に食事を取って貰えないのなら、後は、彼女(魃姫)を溺れるぐらいまで泥水を浴びせ続けるしか方法は有りません。
 出来る事ならば、そんな荒っぽい方法で、この少女を異界へと追い返したくはないのですが。

 そう考えながら、俄か仕立ての神職から解放された俺が、コルベール先生の鄙びた庵(ボロ屋)の入り口から見えている食事中の二人に対して、後ろ姿を見せる事なく完全に退出する事に成功する。
 多分ですが、完全に扉を閉じて仕舞う必要はないでしょう。一応、俺の能力で、このコルベール先生の研究室は結界が施され、一種の聖域と成って居ます。

 まして、完全に閉めきって仕舞うと、今の気温から考えると、コルベール先生が熱中症で倒れて仕舞う可能性も有りますからね。
 今、先生に倒れられると、それだけ、あの少女を送還するのに余計な時間が掛かって仕舞いますから。

「それで、シノブ。その妙な格好と、あの女の子の食事を急に作り出した理由を()()()説明して貰えるかしら?」

 コルベール先生の研究室の入り口にて、神饌を運び、そして、祝詞を唱え終わった俺を待ち構えていたキュル
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