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トロヴァトーレ
第二幕その五
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第二幕その五

「伯爵」
 フェルランドが声をかけた。
「何だ」
「本当に宜しいのですね」
「当然だ」
「修道院とことを構えることになりかねませんが」
「わかっておる」
 しかし彼は引くつもりはなかった。
「だがそれがどうした。私のこの想いは誰にも負けないものだ」
「それはわかっておりますが」
「フェルランド」
 ここで伯爵は彼の名を呼んだ。
「はい」
「そなたは私のことを幼少の頃から知っているな」
「はい」
 彼は伯爵が幼い頃からその側に控え仕えてきたのである。
「ならばわかっている筈だ。私がこうした時決して引かぬのを」
「はい」
「必ずや彼女をこの手に入れる。その為なら」
 言葉を続けた。
「教会を敵に回そうとも構わぬ」
「左様ですか」
 フェルランドはそれを聞いて覚悟を決めた。
「では後のことは私にお任せ下さい」
「いつも済まぬな」
「いえ」
 伯爵の謝罪にも応えた。
「それが私の務めでありますから」
「すまぬ」
 しかし伯爵は引くつもりはなかった。彼等はここで木の陰に隠れた。
「まだか」
 伯爵は木の陰でそう呟いた。
「落ち着きなされ」
 フェルランドはそんな彼を宥めた。
「必ず来ます。ですから」
「そうだな」
 彼は落ち着くことにした。
「皆の者、頼むぞ」
「はい」
 フェルランドだけでなく他の者もそれに頷いた。
「神に逆らおうとも」
 伯爵はまた呟いた。
「彼女をこの手に入れなければならないのだからな」
「はい」
 ここで尼僧達の夜のミサの声が聴こえてきた。
「ほう」
 それは清らかな女達の声であった。伯爵達はそれに耳を傾けた。
「エヴァの娘達よ、過ちが貴女をふさごうともいずれ悟ることでしょう」
「エヴァか」
 伯爵はその名を聞いてふと声に出した。
「この世は夢幻に過ぎないということを。この世における望みは儚いものであることを」
「それは違うな」
 しかし伯爵はそれを否定した。
「私の望みが彼女である限り」
「さあ、神が授けられたヴェールが貴女を守ります。この世でのことからは全て解き放たれました」
「そうすれば私にはもう生きる意味はない」
 尼僧達の言葉と伯爵の想いは全く異なるものであったのだ。
「天に身を捧げられなさい。そうすれば天は開かれましょう、貴女に」
「例えそうだとしても」
 伯爵はまた言った。
「私には彼女が必要なのだ」
 やはり彼の決意は固かった。そしてそこに二人の女がやって来た。
「あれは」
「お待ち下さい」
 フェルランドは出ようとする伯爵を制した。
「まだです。充分に近付いてから。よいですね」
「わかった」
 彼は落ち着きを取り戻しそれに頷いた。
「今が肝心だからな」
「はい」
 
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