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トロヴァトーレ
第二幕その一
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答えた。
「皆もう行ったんだね」
「そうだよ、仕事にね」
「俺も傷が癒えたら行かなくちゃならないけれど」
「けれどそれにはまだ早いよ」
 だが女はここでマンリーコを止めた。
「御前の傷はかなり深かったからね。用心おしよ」
「わかってるよ」
 マンリーコは優しい笑みを浮かべてそれに応えた。
「自重しているよ。母さんの為だたらね」
「わかっていればいいんだよ」
 女はそれを聞いて目を細めた。
「御前は何といってもこのアズチェーナの大切なたった一人の息子だからね」
「うん」
「だからね、決して無茶はするんじゃないよ」
「それは無理かも知れないけれど」
 マンリーコは少し悲しい顔になった。
「俺は騎士だからね」
「そうかい」
 アズチェーナもそれを聞き悲しい顔になった。
「ところで」
「何だい?」
 マンリーコは問うてきた。
「さっきの独り言だけれど」
「ああ、あれかい」
「前からよく言っているよね。あれは一体何なんだい?」
「昔の話さ、昔のね」
「昔の」
「そうさ、御前にはまだ何も話してはいなかったか」
「寝言でよく聞いてはいたけれど。前から気にはなっていたよ」
「そうかい。聞きたいかい、この話」
「よかったら」
 マンリーコはせがんだ。
「是非聞かしてくれないかい」
「わかったよ」
 アズチェーナはそれを聞いて頷いた。
「御前は小さい時からいつも外に出ていた。だから話す機会もなかったしね」
「うん」
「じゃあ話すよ。この話を」
 異様に長い前置きであった。
「あの忌まわしい話を、御前のお婆さん、私のいとおしいお母さんの最後をね」
「ああ」
 マンリーコは頷いた。その顔からはもう笑みが消えていた。

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