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皇帝ティートの慈悲
第一幕その二
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第一幕その二

「私は貴女様を信じます」
「それが答えなのですね」
「その通りです」
 今それを自分でも認めたセストであった。
「ですから何なりとお命じ下さい。お決め下さい」
「何なりとですね」
「その通りです。貴女様は私の運命です」
 こうまで言うセストだった。
「私は貴女様の為でしたら何でもしましょう」
「言いましたね」
「はい」
 今それもはっきり認めたのだった。
「はっきりと今」
「わかりました。それでは私も言いましょう」
 ヴィッテリアもまたそれを受けて言うのだった。そこには皇族たるに相応しい倣岸さがあった。気品よりもそれが勝っていたのだった。
「私は太陽が沈む前に」
「この太陽が沈む前に」
「そうです」
 まずはそれを言い切ってみせた。
「あの恥ずべき男が消えることを望んでいます」
「そうですか」
「先程も言いました」
 これは彼女にとっては絶対の真実だった。
「あの男は簒奪者」
「簒奪者・・・・・・」
「本来ならこの偉大なローマは私のもの」
 これが真実であるのだ。あくまで彼女にとっては。
「それを取り返すことこそが望みです」
「では私は」
「行きなさい」
 冷然とした態度で言葉を告げた。
「今すぐに」
「わかりました。ですが」
「まだ何かあるのですか?」
「御願いがあります」
 顔をあげてじっとヴィッテリアを見ての言葉だった。
「私から。せめて」
「せめて?」
「その甘い眼差しをお与え下さい」
 切実な顔になって言った言葉だった。
「せめて。それだけでも」
「それは」
「御願いです」
 躊躇いを見せたヴィッテリアに対してさらに懇願した。
「一度だけでも。どうか」
「私は」
 ここでヴィッテリアは思うのだった。己の中にあるその倣岸さと冷然さ、そして恨みの深さを。それを感じるとやはりよいものは感じないのだった。
(間違っている)
 このことは自覚していたのだった。その自覚が今セストから顔を背けさせた。
(セストを利用して。こんなことをするのは)
(私は愚かだ)
 そしてセストもこう思っていたのだった。彼は俯いてそれを思うのだった。
(陛下を害するなぞ。そんなことは)
(陛下に怨みはない筈)
(あの様な素晴らしい方を)
 それぞれティートという皇帝についてはよく知っていたのだ。彼等にとって彼は親友でもあるのだ。それだけかけがえのない存在に対して害意を抱いている自分達に対して嫌悪という感情を抱かずにはいられなかったのである。
(害するなぞと)
(私は何と罪深い)
 そう考えている時だった。今度は部屋に赤い髪をした長身の若者がやって来た。銀色の服に赤いマント、精悍な顔立ちはセストとは正反対であった。
「セスト、ここにいたか」

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