暁 〜小説投稿サイト〜
シャンヴリルの黒猫
Chapter.1 邂逅
1話「虚無へ」
[1/3]

前書き [1] 最後 [2]次話
 思えば俺は、20年前にこのひとに造られたんだった。なんて、ちょっと現実逃避してみる。
 目の前には閻魔大王も真っ青になって逃げ出すだろう、本当の“神”がいる。人は、この方を『魔人』と呼ぶが、語源となった『魔神』の方が呼ぶにふさわしい。

 まさしく、この方たちは神の領域にいる。

 そして今、俺はこの方のお怒りを買ってしまった。怒りと言っても怠惰なこのひとだ、本気で怒るなんて面倒な事、していないだろうが。

 全ての発端は、俺が違う魔人、ヴュー=エ=ルバ様の遣い魔に喧嘩で負けたことにある。俺は魔人に造られた、人間を元にした遣い魔だ。それに比べて、あいつは遣い魔と使い魔の息子。所謂、サラブレッド。勝てるわけがないじゃないか。しかし、そんな事はこの方の前では些細な言い訳だ。

「アシュレイ。お前にはまだ伸び白がある。それに、奥の手も出さなかった試合であるし、負けても致し方ないと言えなくもない。だから、(わし)としてはお前を手放すのはそれなりに勿体ないとは思うが、ここは他への体面と言う物がある」

 俺の召喚主にして、主人、少女の姿を騙っている“享楽”の魔人、ノーア=ナ=ヴュラ様は老人の様な口調で仰った。実際、この人は千もの時を生きているのだから、間違いではない。

「は」

 彼女の前でひざまつき、首を垂れると、適当に切りっぱなしの黒髪が視界に入る。ノーア様に造られて20年。彼女がふと“夜の闇の色をもつ人間を見て見たい”と思われて、俺は造られた。その後、生まれてまだ1日も経たないうちから過酷な訓練を受け続け、15の時から正式に彼女の遣い魔として働いてきた。

 だが、それも今日で終わる。抵抗しようとは思わなかった。文字通り血反吐を吐いた特訓を受け、使い魔の『刻印』を受けたころは彼女に対して恨み辛みもあったが、7年もお傍にいると、何故かその気持ちも薄らいだ。

「お前を『狭間』へと強制送還する」

「……ッ。今まで…お仕えさせていただき、ありがとうございましたッ」

「うむ」

 何とも思っていないような顔で頷くと、俺に手を翳した。転送の古代魔法だ。

 この方にとって俺達『遣い魔』は代えの利く道具。道具を磨いたりどちらが優れているかを競い合わすことはあっても、代えがきくなら古く劣るモノはすぐに捨てる。

 普通捨てるというならば、他の魔人は使い魔を“消滅”させるだろう。存在自体を抹消させる力を、主である魔人は持っているのだ。

 だが、『享楽の魔人』と言われるこの人の場合、その捨てられる場所は『狭間』と呼ばれる亜空間である。理由は『万が一、(わし)の遣い魔を召喚できるだけの人間が現れたら面白いから』。

 主人の他は、ヒトの中で限られた者が干渉することが
前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ