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アドリアーナ=ルクヴルール
第四幕その八
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第四幕その八

「ああ、おそらく・・・・・・」
 マウリツィオは唇を噛んで言った。顔には苦渋の色が滲み出ようとしている。
「そんな・・・・・・・・・」
 ミショネはその言葉に絶望した。それはマウリツィオも同じであった。
「・・・・・・・・・」
 マウリツィオはただアドリアーナの顔を見ている。彼女はゆっくりと眼を開けた。
「マウリツィオ?それに監督も」
「良かった、目は見えているみたいだ」
 二人はその言葉に少し胸を撫で下ろした。
「頑張ってくれ、もう少しでお医者様が来るから」
 マウリツィオは彼女を励ます様に言った。
「お医者様って・・・・・・。私は死ぬの?このまま」
 アドリアーナはゆっくりと頭を振った。
「嫌、それは嫌・・・・・・」
 彼女は言った。そしてその黒い瞳から涙を流した。
「貴方と一緒になるのだから。そして最後まで二人でいるのだから」
「そうだ、僕達はこれからもずっと一緒にいるんだ」
 マウリツィオは彼女に対し言った。
「そう、一緒にいるのだから。・・・・・・私は死にたくはないわ」
「そう、貴女はこれからも伯爵とずっと一緒にいるのです」
 ミショネは彼女を慰め、励ます様に言った。
 その時激しい痙攣がアドリアーナの身体を襲った。彼女はそれに苦悶した。
「ああ・・・・・・」
 その声は弱々しかった。それが全てを物語っていた。
「もう駄目みたいね・・・・・・」
 彼女は力無く微笑んで言った。
「そんな筈はない!」
「そうです、それは思い過ごしです」
 二人は必死に励ます。しかしアドリアーナの顔を見てそれが事実であることもわかっていた。
「身体から力が抜けていく・・・・・・。それがわかるわ・・・・・・」
 立ち上がろうとするが出来ない。マウリツィオとミショネはそんな彼女を懸命に支える。
「有り難う、最後まで」
 アドリアーナは二人に言った。その顔にはまるで幻影の様な優しい微笑みがたたえられていた。
「けれどもう駄目ね。ミューズの声が聴こえてきたから」
 彼女はそう言うと右手を上へ差し伸べた。
「光が私を誘うわ。その光が私を苦しみから解き放ってくれるーーー−。私は愛をこの胸に抱いて天へ行くのね。今光が私を包んだわ。・・・・・・・・・マウリツィオ、ミショネさん」
「うん」
「はい」
 二人は名を呼ばれて答えた。
「また・・・・・・・・・お会いしましょう。今度は天界で」
 彼女はそう言うと瞼をゆっくりと閉じた。そして二人の腕に重みをかけ眠りについた。
 そしてそのまま息をしなくなった。
「アドリアーナ!」
「アドリアーナ!」
 二人は叫んだ。しかしもう返事はなかった。
 二人はアドリアーナの亡骸を抱いて慟哭する。しかし彼女の死に顔は穏やかに彼等に微笑んでいた。
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