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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第九十四話 終焉
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期待に応えられなくなった。体制に綻びが生じたのです。そして今、ルドルフの作った体制は終焉の時を迎えようとしている……」

「馬鹿な……」
私の言葉にヴァレンシュタインは首を二、三度横に振った。
「私の考えでは五十年ほど前からそれは始まっています」
五十年前……、五十年も前から始まっている……。

「同盟軍にブルース・アッシュビーが登場した事で帝国軍の指揮官に戦死者が多く出ました、その大部分が貴族です。損失の穴埋めは平民、下級貴族によって行われました、本来なら貴族が埋めるべきだったのにそれが出来なかった……、貴族はルドルフの期待に応えられなかったのです」

……そうかもしれない。軍事に練達した貴族が全く居なかったわけではないだろう、だが貴族達は戦場に出る事よりもオーディンで安楽な生活を送る事を望んだ。帝国のために先頭に立って戦う事を拒否した……。能力だけではなく意志の面でもルドルフ大帝の期待を裏切った……。

「貴族達が享楽に耽り義務を果たさなくなった、その義務を平民、下級貴族に押し付けたにもかかわらず代償としての権利は与えず踏み躙り続けた。平民、下級貴族の不満、怒りは限界に来ている」
「……」

ヴァレンシュタインが一口水を飲んだ。私も水を飲む、ミハマ中佐も水を飲んだ。
「リヒテンラーデ侯はその事に気付いていたと思います」
「リヒテンラーデ侯……」
鸚鵡返しに呟く私にヴァレンシュタインは頷いた。

「だからカストロプ公を平民、下級貴族の憎悪の対象として用意したのでしょう。貴族達がルドルフの期待に応えられなくなった以上、リヒテンラーデ侯には生贄を作る事でしか帝国を守る術を見い出せなかったのだと思います……、哀れな話ですよ」
嘲りは感じられなかった。ヴァレンシュタインは心底リヒテンラーデ侯を哀れんでいる。

「……終焉の後に来るものは」
声が掠れた。
「再生か、崩壊か……。帝国が再生するには思い切った改革が必要です。それが出来なければ為す術もなく混乱し崩壊するしかない」
「……改革か」

「鍵を握るのは貴族でしょう、ルドルフの遺産と言っても良い。遺産を受け取って改革を行うのか、それとも負の遺産として切り捨てるのか……。当たり前の事ですが、どういう決断をするのかで帝国の未来は変わるでしょう……」
そう言うとヴァレンシュタインはまた水を一口飲んだ。

つまりルドルフ大帝を認めるのか、否定するのかという事か……。そして血統を重視するのか能力を重視するのかと言うことでもある。なるほど、和平にも関わってくるか……。改革は帝国だけではなく同盟の未来にも関わる、注意すべきであろう……。



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