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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
エル・ファシル騒乱(前)
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入れた。
「それと、もう一つ、お願いがあるんですが」
「なんだ、随分と注文が多いじゃないか」
「こういう異常事態ですからね」

 フロルは今のうちに、ヤンのためにできることをできるだけしておこう、と考えていたのである。一惑星の住民300万がハイネセンに避難してくるのだ。およそ、難民として。恐らくその受け入れ先やら処遇やらで、政府は大変なことになるだろう。それがヤンの功績に直結するとは思えなかったが、彼らの困難には手を貸してやろうと思っているのだ。ここで上手く立ち回れば、これも一つの功績になるだろうというのも、心の何割かを満たしていたが。

 ここで、一つだけフロルという男の矛盾がある。

 彼には昇進やらエリートやら、そういう低俗な出世欲ははっきり言って持ってなかった。ないのである。だが、彼は昇進しなければならない、とも考えていた。なぜなら今後動くためには、階級が高ければ高いほど動きやすいことを知っていたからである。今後の歴史に介入するには、ある程度の権力が必要不可欠だったのだ。その結果、彼は人よりも下世話な出世欲がないにも関わらず、出世を追い求めるという奇妙な事態に陥っていた。そこが彼の後世の評価に歪な矛盾を齎すとも知らずに。

「ドワイト・グリーンヒル少将にお会いしたいのです」
「宇宙艦隊司令部参謀のグリーンヒル少将か? しかし、なんでまたそんなお偉方に会いたいんだ?」
「ちょっと、彼にお願いしたいことがありましてね」
 フロルはここでも、余人が知り得ぬであろうことを知っていたのである。彼の妻と娘、後のヤン夫人となるフレデリカ・グリーンヒルがエル・ファシルにいることを。
「またおまえは妙なことを考えているんじゃなかろうな?」
「俺は自分の出来る限りのことはやるつもりですよ。どうせ、次の任務まで、この一年半の有給休暇を使い切るつもりですからね。時間だけはあるんです」
「まあ、いい。面会できるかは知らんが、要望だけは届けてやろう。で、用件は何だ?」
「用件?」

 フロルは鸚鵡返しに言う。しかし考えてみれば当然だった。宇宙艦隊司令部参謀と言えば、それなりの要職なのだ。暇ではないだろうし、たかが一大尉の面会など、普通なら受け付けないだろう。フロルの名も、そこまで知名度があるわけはあるまい、とも考えていたが。

「ご家族の件で、と言って下さい」
「なんだ、おまえ、誘拐でもしたのか?」
「そんな恐れ多いことはしませんよ。文字通り首が飛びますからね。それはともかく、伝言をお願いします。おそらく、少将は会うと言うはずです」
 自信ありげに言うフロルを、キャゼルヌは奇妙なものを見るような目で見つめていた。


























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