暁 〜小説投稿サイト〜
【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
疑念の夜
[1/13]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

疑念の夜

 右手の戦斧《トマホーク》は0.25Gの軽重力下にあっても、まるで通常の重力下であるかのように、その重みをフロルに感じさせていた。ともすれば、その手が震えそうになるのを、フロルはなんとか抑えている。
 構えた刃先を向けている男が、いったい誰なのか。フロルにプレッシャーを与えるのは、その事実だった。

??ラインハルト・フォン・ミューゼル。

「卿は薔薇の騎士連隊(ローゼンリッター)か」
 ラインハルトは、フロルに向かってそう言った。無論、フロルは正式な薔薇の騎士連隊(ローゼンリッター)ではない。彼は少しばかりの期間、薔薇の騎士連隊(ローゼンリッター)の中で教練を受けただけであり、よくいって準隊員というところである。
 だが、それを指摘することはない。
 薔薇の騎士連隊(ローゼンリッター)の名は、それだけで敵に威圧感を与えるからである。だが、それがラインハルトに有効であるのか、甚だ疑問ではあったが。
「まぁ、そんなところだ、准将殿。中佐が相手では不満かもしれんが、付き合ってもらうぞ」
 相手が、あのラインハルトであるというだけで、フロルは舌が縺れるような緊張感を感じている。彼の手にある戦斧を、果たして今まで彼が繰り返してきたように、思うがままに操ることが出来るのか。

 だが同時に、フロルは考えていた。
 ここで、ラインハルトを殺せば、自由惑星同盟が滅亡することはなくなる。
 ヤン・ウェンリーが惨めな死を迎えることがなくなる。
 そして、イヴリンが??

「もらった!」
 フロルの戦斧は正しく彼の望むような曲線を描くはずだった。鋭く構えたそれが、体勢の崩れたラインハルトの急所に、吸い込まれるように届くはずだった。

 しかしヘルメットの奥の、ラインハルトの顔は微塵も怯えを見せていなかった。
 その姿勢からでは、その右手の戦斧を振るうことも適わない。
 ラインハルトにできることは、振り下ろされる死に神の鎌ならぬ斧がその身に届くまでの短い間、ここにはいない神への祈りを捧げることだけだったろう。
 にもかかわらず、ラインハルトは、まったく怯えていなかった。
 その蒼氷色《アイスブルー》の瞳が、鋭く雷のような光を放ち、フロルを貫いていた。

 まるで、自らが死ぬことなど欠片も怖くないように。
 自らが死ぬはずがないと、確信しているかのように。

「ラインハルト様!」
 その声は、ヘルメットを貫いてフロルの耳に届いていた。
 焦ったようなその声。
 鋭いキルヒアイスの声だった。
「駄目ッ!」
 その声に被さった言葉は、フロルの親しんだ声色だった。
 イヴリンの声である。
 悲痛な、叫びの声。

 フロルは後ろを振り向いた。
 そしてそこにキルヒアイスの姿を見た。

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ