暁 〜小説投稿サイト〜
星河の覇皇
第八部第三章 異邦人その四
[1/4]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

「長官の唯一の欠点だろうな」
「本当に。まあ仕方ないですが」
 八条は得た資金をどう活用するかは上手い。しかしその資金の獲得の方法を知らないのである。それこそが問題なのであった。政治というものはやはり何をするにあたっても資金が必要なのであるから。
「そうした汚れ仕事を引き受けるのは次官しかいないか」
「そうですね。ここはあの人に全てを任せましょう」
「うむ。そうするしかないだろうな」
「はい」
「あと貴官に一つ言っておくことがある」
 コアトルはここで話題を変えた。
「何でしょうか」
「長官の欠点はもう一つあった」
「ありましたか?」
 ミケンズは怪訝そうな顔をした。
「ああ。女性の心理を読めないということだ」
「確かに」
 ミケンズはそれを聞いて頷いた。
「それもかなり極端にですね」
「本当にな。よくあれだけ鈍感でいられるものだ」
「何でも長官の母国の陛下からチョコレートを賜ってもそれが何故か今一つわかっておられなかったそうですから」
「そういう人なのだ、あの人は」
「最近ではもう一人ライバルが出たそうですよ」
「聞いているよ」
 コアトルはそう答えて笑った。
「あの甘いものが何よりも好きな才媛だろう」
「はい。相変わらず長官は気付いておられないようですが」
「不思議なものだ。あれだけのルックスであれだとは。普通美男子といえばプレイボーイなのだが」
「長官の母国の古典のように」
 源氏物語のことであるのは言うまでもない。連合においてはかなり知られた古典である。ただ原本は文章があまりにも難解なので現代語訳されたものが読まれる。それに古代の日本語を解読できる者は学者でもない限りいないのである。
「何でもかなりの漁色家の話だったな」
「ええ。総監は読まれたことはないのですか」
「平家物語と太平記ならあるが」
 軍記ものとして有名な二作である。
「特に平家物語はいいな。実は恋愛ものは読まないのだ」
「左様でしたか」
「そのかわり妻が好きだ。この前は源氏物語の舞台に付き合わされた」
「それはまた」
「何日も続くあれをな。通しというのか」
「はい」
 歌舞伎の用語である。一つの演劇の最初から最後までを一通り上演するのである。歌舞伎は一つの場を上演することが多いことからそういう呼び方となったのである。
「最初から最後まで付き合わされた。かなり疲れたぞ」
「ニーベルングの指輪みたいなものでしょうか」
 ドイツの音楽家ワーグナーの作り上げた大作である。四日かけて上演する。全十五時間にも及ぶ壮大な楽劇である。
「あれよりずっと長い」
「はあ、あれよりですか」
 これにはミケンズも面食らった。
「疲れた。それで休暇は消えてしまったよ。これも家族サービスだと諦めているが」
 実は彼は愛
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ