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チェネレントラ
第三幕その五
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第三幕その五

「賢者は国の宝なのですから」
「それはわかっておりますよ」
「ならばいいのですが」
「男爵」
 彼はあらためてマニフィコに顔を向けた。
「はい」
「貴方には隠し事はしないです、決して」
「それはわかっております」
「ですが」
「ですが」
「残念なことにお互いかなり離れた場所に立っておりますな」
「そうでしょうか」
「ええ、残念ながら」
 彼はそう答えた。
「私は宴を開くことはないのです」
「ご冗談を」
「いやいや」
 マニフィコはそれを笑い飛ばしたがダンディーニは否定しなかった。
「常に徒歩で贅沢なものも口にはしません」
「殿下がですか。まさか」
「いや、それが」
 彼は言葉を続ける。
「本当なのですよ」
「からかわれているのでしょう」
「そう思われますか?」
「はい」
 マニフィコは答えた。
「殿下、ご冗談が過ぎますぞ」
「これが冗談ではありません」
 ダンディーニはピシャリとそう答えた。
「その証拠に私は王子ではありません」
「えっ!?」
「私は影武者なのですから」
「またそのような」
「いえ、それが本当に。私はダンディーニといいます」
 彼はここでそう名乗った。
「王子の従者であります。私達は入れ替わっていたのです」
「嘘でしょう?」
「嘘ではありませんよ」
 彼はそれを否定した。
「何なら証拠でも。すぐにわかりますよ」
「何と・・・・・・」
 これには流石に閉口してしまった。それでいて開いた口が塞がらなくなってしまっていた。
「殿下の身の周りのお世話をすることが私の仕事です。まあ貴族なのは確かですがね」
「何としたことじゃ。わしともあろう者が」
 マニフィコはようやく口を閉じてそう言った。
「まんまと騙されておったわ」
「まあまあ」
「まあまあではありませんぞ」
 彼はダンディーニに対してそう言い返した。
「殿下も貴方も何を考えてそのような」
「それはすぐにおわかりになると思いますよ」
 彼はそう言葉を返した。
「すぐにね」
 そして言葉を続けた。
「屋敷に帰られれば」
「いや」
 だがマニフィコはここで首を横に振った。
「帰りはしませぬぞ」
「ここはお引取りを」
「何故ですか」
「それもすぐにおわかりになることです」
「言っておきますが」
「はい」
「私も貴族です」
「ええ、存じておりますよ」
 ダンディーニはそれを聞いても臆してはいなかった。
「私もそうですから」
「それではおわかりだと思いますが」
「はい」
「この屈辱忘れはしませぬぞ」
「まあ御気を鎮められて」
「そうですな」
 苦虫を噛み潰した様な顔でそれに応える。
「貴族は分別も備えているものですから」
「はい」

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