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仮面舞踏会
第五幕その三
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 彼はそれに言葉を返した。
「私が持って来たのは」
「うむ」
 二人は固唾を飲んで彼の次の言葉を待った。それは。
「ピストルだ」
 彼は剣呑な声で言った。
「ピストルか」
「そうだ。これならば間違いなくあの男を殺せる」
「うむ」
「確実にな。では任せてくれ」
「うむ、頼むぞ」
「成功を祈る」
「私が大事を間違えたことはない」
 彼は仮面の奥に暗い決意を隠して応えた。
「だから。安心してくれ」
「わかった」
「それではな」
 伯爵は一旦人の中に消えた。そして王を目指してその中を泳いでいく。まるで獲物を狙う黒い鮫の様であった。静かで、それでいて酷薄な。王の命は今将に死の牙の前にあった。
 王はその間も夫人と話していた。夫人は必死に懇願していた。
「ここはお逃げ下さい」
「私は臆病者と言われたくはない」
「ですが」
「刃なら避けてみせる」
 彼は言った。
「凶刃に倒れたならばそれも運命だ」
「そんな・・・・・・」
「あの占い師が言ったように」
 ここでふとアンカーストレーム伯爵のことが頭に浮かんだ。彼女の夫でもあるあの者の顔が。

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