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仮面舞踏会
第五幕その一
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デンの王として。その様なものは恐れてはいなかった。
「そして最後にあの人と会う為に」
 彼は手紙を机の上に置いた。そしてその場を後にした。
 扉が閉まり部屋を沈黙が覆った。遠くから華やかな音楽だけが聴こえてきていた。
 舞踏会には多くの客達がもうみらびやかな服に華やかな仮面を着けてそこにいた。その服もまた仮初めのものであり全てが偽りであるこの舞踏会に相応しいものとなっていた。ここでは王も貴族も関係なかった。何もかもが虚飾の世界となっているのであるからだ。
 陽気であるが空虚であった。そこには華やかな音楽はあったがそれも芝居でしかなかった。何もかもが虚飾の世界、それが仮面舞踏会であった。
 その中を黒い服に赤いベルト、そして青のドミノを着けた男達が三人歩き回っていた。そして何やら囁いていた。
「死」
 その中の一人が言った。
「死」
 そして他の二人がそれに応える。そのうえで辺りを探っていた。
「ここにはいないか」
 その声はアンカーストレーム伯爵のものであった。彼もまた辺りを探っている。
「では別の場所に行くか」
「いつもこうなのだ」
 リビング伯爵もホーン伯爵も忌々しげに呟いた。
「すんでのところで逃げられる。そして今まで悲願を果たせずにいた」
「それには理由があった」
 だがアンカーストレーム伯爵は二人を宥めるようにして言った。
「理由?」
「私があの男の側にいたからだ」
 伯爵は低い声でそう述べた。
「今までは私が危険を探し出し、それに対処してきた」
「そうだったな」
「だが今は違う。今はな」
 声に暗い怒りが篭った。
「その意味がわかるな」
「ああ」
「では行くか」
「その方がいい。ここは危ない」
「どうかしたのか?」
「左を見てくれ」
「左を」
 二人はそれに従い左を見る。華麗な貴婦人と優雅な紳士達の間に一人小柄な短い黒いドミノの男がいた。
「あの男か」
「そうだ」
 アンカーストレーム伯爵は短い、そして低い声で応えた。
「行こうか」
「うむ」
 三人は去ろうとする。だがアンカーストレーム伯爵だけはその小柄な男に捕まってしまった。
「待って下さい」
「何の用だ」
 その声は少年のものであった。伯爵はその声でこの短いドミノが誰なのかわかった。
「オスカルか」
「まあそれは内密に」
 オスカルはおどけた声でそう返した。
「今宵は仮面舞踏会ですから」
「では私のことも構わないでくれ」
 伯爵は忌々しげに言い返す。
「わかったな」
「わかりました、伯爵様」
「フン」
 伯爵は不機嫌な声でそう返した。

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