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或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書
五月 栄光と黄金(中)
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に引き渡しました」

「離脱開始から警備隊に引き渡すまでの時間は?」
 松良大尉はその問いに一瞬迷ったが、答える。
「はっきりとは覚えておりませんが、おそらくは半刻かそれに二尺程たしたものだと記憶しております。
引き渡した時刻は記録されている筈ですが、離脱を開始した時刻は記録できる状況でもなく、自分も余裕がありませんでしたので――」
 そこで言葉を切るが、
「その後は先程の説明の通りです。避難後は宮城警保署で保護を受けていた鈴鳴屋の輸送員と駆けつけた支店の番頭が輸送馬車の被害を確認し、四千金が強奪されていたことが判明いたしました」
だが疾しいところはない、そう強い口調で語る中隊長に、豊久も首肯した。
「つまり、貴官の部隊が輸送を行う馬車と接触を行ったのは
第一小隊を除けば一刻以上は掛からなかったということですね?」

「はい、その通りです」

「そして掃討後の検分、および四千金の捜索は宮城警保署の者が主導で行ったのですね?」

「はい、その通りです」
抗議の意味を込めてかきわめて機械的な態度の中隊長と無感情な首席監察官の応答を豊久は淡々と記録として筆記する。
「ふむ、副官。他に聞くことはあるか?」
豊久の記録した審問の確認を終えた堂賀が切りの良いところで口をはさむ。
「いいえ、質問に答えていただきありがとうございました、松良大尉」
 豊久が頭を下げると、堂賀は頷いて締めの言葉を発した。
「協力ご苦労だった、中隊長。また後日に事実関係の確認を行うかもしれないが、今日のところはこれで結構だ。次に井田中尉を呼んできてくれ」



 次に監査官たちの前に姿を現した井田中尉は衆民出身の三十手前の銃兵将校である。
「出頭御苦労、井田中尉。貴官には幾つかの質問に答えて貰う。
こちらが私の補佐を行っている副官の馬堂豊久大尉だ。大尉によってこの審問は記録される事を――」
 堂賀と井田の問答は先程の松良大尉との審問と異なり、小半刻程で豊久は筆をおくことができた。
書き起こした内容の大半は匪賊討伐戦の中でも稀有なほどに混乱しきった状況だった事を示している。陸軍側の負傷者はほぼ全員がこの小隊に集中しており、十二人もの兵たちが何らかの形で負傷している。
「――そろそろ上がりだな。もう四刻半だ。塞原に戻った方が良いな」
 堂賀の声に豊久も慌てて刻時計を取り出す。
「本当だ――もうこんな時間ですね。
それで、その。この受勲審査の結果はどうなるとお考えでしょうか?」
ためらいがちに問いかける副官に対し、首席監察官は逆に問いかけた。
「貴様はどう思っている?そう問いかけるという事はなにかしら疑問があるということだろう?」

「はい。戦闘とその事後処理に関しては円満そのもので、疑問をはさむ余地はありません。

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