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或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書
五月 栄光と黄金(上)
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あった、その際に馬車の扉が破壊されていることは小隊長の証言二も書かれてますね。
正貨の持ち逃げはその際に行われたものだと思われる、と。
こちらの中隊主力が到着してからは単純な包囲掃討戦ですから、匪賊側の逃亡は不可能。
後は事後処理の際に不正がなかったかと被害者である鈴鳴屋側から事情の確認を行ってそれで終了、と。
まぁ流石に倍以上の敵とやりあっている小隊が千金箱を担いで馬車を移動させるのは不可能でしょうし、当然ですね」
そう云いながら自分の鞄へ丁寧に精査を終えた書類束を収めてゆく。
「あぁ、今のところは不自然な点は見当たらないな。後は第三聯隊の駐屯地で聴収か――うむ、そろそろ寺聯隊長の協力が必要だな。とりあえずは駐屯地まで話を聞くとしよう」

「しばしお待ちを――と。はい、首席監察官殿。ただちにお呼びしてまいります」
 均整のとれた形に膨らんだ鞄を検めて会心の笑みを浮かべた若い大尉は機敏に立ち上がると部屋を出て行った。
「若いのは良い事だな」
二十歳も年の離れた部下の背を笑って見送ると首席監察官は思考を巡らせる。
――今回の案件は存外に手間をかける必要がありそうだ。いっそのこともう本格的に愉しい仕事の熟し方を仕込むのもありか?
「うむ、若者に無理をさせるのも年配者の務めよな」
部下の教育方針を決定した熟練の情報将校は愉悦の笑みを浮かべた。


同日 午後第一刻半 皇州都護鎮台司令部庁舎内幕僚執務室
兵部省陸軍局人務部監察課主査 兼 首席監察官附き副官 馬堂豊久大尉


「――なんか寒気がしたような」
 ぶるり、と身を震わせた豊久に中寺大佐は首を傾げた
「どうしたのだね?大尉」

「はい、なんでもありません、大佐殿」

「大尉、司令部で行える調査を終えたようだが、何か問題はあったのかね?」
 ――おいおい。
 はっきりと突っぱねて悪感情を抱かせるわけにもいかぬ、と慌てて言葉を探る。
「はい、大佐殿。不審な点は一切見受けられません。ですが、当然ながら戦闘時の混乱もありますので慎重に事実関係の吟味を行った上で上申をだすべきだと判断なさっているようです」

「――ふむ、成程。ここ最近では唯一といえるほどの戦いだったからな」
一応は納得したのか、上機嫌に頷く聯隊長の様子に内心、胸を撫で下ろす。
 ――これからが本番だってのに、こんなトコで協力者を失ったら大失点だ。

「はい、大佐殿。その為、万一の事がないよう厳密な審査を行うおつもりのようです」
うっかり緩みそうになった気持ちを慌てて引き締める。
――そう、これからが本番だ。迂闊な真似は許されない。


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