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八条学園騒動記
第五話 好きだから仕方ないその六

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 その目は。勝負をしている目だった。じっとルシエンを見据えている。微動だにせずに。彼の一部始終を見据えていたのであった。まるで敵を見据えているように。じっと見ていた。
 ダニーは黙ってしまった。姉のそんな目を見たのははじめてだったからだ。彼は結局動かなかった。そして。その前でルシエンと大アなのやり取りが続いていた。
「どう、これから」
「これからって?」
 ルシエンはダイアナの問いに目を動かす。
「アンネット待っても来ないんでしょう?それなら」
 彼を横目で見てきた。計画的な流し目である。
「二人で。遊ばない?」
「君と?」
「そうよ。デートってのはね、遅れる方が悪いのよ」
 誘惑の言葉であった。相手が悪いのであって貴方は悪くはないと。そう言って誘っているのである。
「違うかしら」
「そんなものかな」
 ルシエンは微動だにせずにそれに返す・
「そんなものだったらどうするの?」
 ダイアナはさらに問う。
「行く?二人で」
 これからが分かれ目であった。どうなるかの。アンネットはじっとルシエンを見ている。そのルシエンが取った行動は。今それが見えた。
「いや」
 彼は首を横に振った。
「俺はここで待つよ、アンネットを」
 そしてこう言ったのであった。
「それが約束だからな。それに」
「それに?」
「悪いけれどアンネット以外の女の子とはデート出来ない。悪いな」
「見事ね」
 ダイアナはその言葉を聞いてにこりと笑った。
「そこまで想えるなんて」
「アンネットだからな」
 ルシエンの答えはぶれはしない。
「だから俺だって」
「わかったわ。じゃあ私は一人でね」
 ダイアナはすっと身を退いてきた。
「遊ぶことにするわ」
「悪いな」
「いいのよ、私だって貴方がそう言うと思ってたし」
「からかいか?」
「違うわ。アンネットがどれだけ好きか試しただけよ。あの娘が羨ましいわ」
 何か嫉妬さえ覚えた。
「そんなに好かれるとね」
「俺はアンネットだけでいいんだよ」
 彼はまた言う。
「他の娘なんてどうでもいいんだ。悪いな」
「わかってるわよ。それじゃあね」
 すっと笑って身を退いてきた。
「また月曜ね。学校で」
「ああ。よかったら今度CD交換しような」
「ヘビメタでよかったら」
「こっちも持ってるからよ。じゃあな」
「御機嫌よう」
 ダイアナは笑顔で別れた。ルシエンは彼女を見送るとすぐに真面目な顔になったのであった。何も言わずそこに立ち続けていた。

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