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或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書
四月期 新任大尉の着任報告
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監察官殿直々の事前審査となりますと、騒ぎになりそうですが」

「そう云っても手が空いている監察官はもう居ないだろう?
つい今さっき最後の監察班を龍州に送る書類に判子を押したばかりだ。
今回の監察は可能な限り兵部省局長会議までに決着をつける必要がある。幸いなことに今回の事案は皇州都護鎮台の管区であり、さして遠出する事にはならん。
この時期ならば私が出向いてもさして不自然でもあるまい」

「解りました、首席監察官殿。それでは明日までには日程を立てて、課長閣下に提出しなくてはなりませんね」

「あぁ、監察の開始は三日後で組んでくれ。
最初は鎮台司令部だな。そこから下げていく必要があるが――折衝の二日前には結論を出さねばならない。」
 豊久はそれを聞きながら急いで計算を始める。
「鎮台司令部なら兵部省から半日の距離です。そちらに腰を据えて人務の書類を精査、その後に対象を出頭させて査問、それで十分ではないでしょうか?
さすがに一ヵ月も前の現場に臨場してもさしたる痕跡が分かるとは思えません」

「あぁ、だが関係者の証言書類やら関係書類は警察と憲兵から持ってこなくてはいかんな。
そちらの連絡も頼む」

「私は今から軍監本部で根回しを行ってくる。連絡を済ませたら今日はもう上がってくれて大丈夫だ」
「はい、直ちに取りかかります」
「あぁ明日一番に日程表を見せてくれ、その後に課長と部長閣下に提出する。
貴様も遠出の準備をしていてくれ、場合によっては向こうに残ってもらう必要がでてくるかもしれんからその準備も怠らないように」
 そういうと首席監察官は外套を手に取り部屋を出る。
「半刻までに州警務局に導術連絡を送りますと、今から送れば担当者が残ってくれるだろうが・・・鎮台司令部は六刻まで幕僚部は機能している筈だからこっちにも――あぁ全く、急な出張なんてありがたくて涙が出る!」
 上官が居なくなったのを見計らってから副官の吠える声が執務室に響いた。



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