第三十五話 十三日の月曜日その六
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「というわけだったんだよ」
次の日洪童は憮然としてクラスの皆に昨日のことを言っていた。
「壁もなおってうんこも何とか処分したけれどな」
「大変だったな」
「野兎達にもワクチン打ったしな」
「ふうん」
「それでその兎達どうするんだ?」
ジョルジュがそれに問うてきた。
「飼うのか?」
「ああ」
洪童は答えた。
「別にな。お金とかは困ってないしな」
「そう」
「それに春香が兎好きなんだよ」
これが最大の理由だった。彼は妹に対してはこの上なく甘い。それが彼なのだ。
「だからそれはいいんだよ」
「そうか。それでその兎は何匹だ?」
「最初は十二匹だったんだ」
「多いな」
「それが二十に増えたんだ」
そうジョルジュと皆に述べる。
「八匹もかよ」
「しかもだ」
ここで洪童はいつものお笑い体質を出してきた。
「さらに悪いことがあった」
「あっ、洪童君それって」
それを聞いた彰子はすぐに何が元ネタか気付いた。それで言う。
「助六のあれね」
「ああ。決まったかな」
歌舞伎の有名な演目である。江戸時代の江戸を舞台にしているが演目の中では鎌倉時代になっている。歌舞伎における時代設定はかなり強引である。他の特徴として世界が異様に狭いことと人が中々死なないことである。死に掛けて舞を舞う御仁までいる。そうしたリアリズムは無視していい世界だ。洪童はそうしたのをあえて無視しているのである。
「外してると思うわ」
「ああ、そう」
おっとりしているが容赦のない突っ込みであった。しかし洪童はそんなものでめげはしない。クラスメイト達に話を続ける。
「一匹身重だったんだ」
「それはまた」
「増える予定か」
「また増えた」
こう来た。
「産まれてな。七匹だ」
「二十九匹になったのか」
「ああ、家にいたのが四匹で野兎のが五匹な」
「元々のが十六で野兎が十三!?」
アンジェレッタがそれを聞いて頭の中で勘定する。
「そうなると」
「ああ、一気に増えた。それでだ」
洪童はさらに言う。
「春香が今世話してる」
「そういえば」
アンジェレッタはまた気付いた。
「家の兎と野兎じゃ生まれた時全然違うわよね」
「そう、それでな」
ふと見れば洪童の目にクマがある。それもかなり深い。
「両方の世話もあってな」
具体的に言えば元々飼われている愛玩用の兎はアナウサギなのである。穴で過ごしているから子供は毛も生えていなく歩けもしない。それに対して野兎は目も開いていて毛も生えている。しかもすぐに歩けるのだ。
「大変だったんだよ、特に元からいる方な」
「そうだったの」
「ああ」
またアンジェレッタに応える。
「一気に十九も増えるなんてな」
「思いも寄らなかった?」
「ただしだ」
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