第六話 帰蝶その十五
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また言う雪斎であった。
「拙僧が先陣を務めさせて頂くということで」
「頼んだぞ。それではじゃ」
「まずは北条と武田です」
この二つは忘れてはいなかった。
「誼を通じそのうえで」
「織田じゃな」
「では。そういうことで」
「わかった、それではじゃ」
こう話してであった。今川は雪斎の方針に従い戦略を進めることになった。その中でだ。雪斎は己の屋敷に元康を入れてだ。彼から話を聞くのであった。
茶を入れる。自分自身で茶を淹れてそのうえで元康に出してだ。そうしてまずは茶のことから話すのであった。
「茶にも慣れたか」
「いいものだと思います」
元康は素直な声で雪斎の問いに答えた。
「まことに」
「そう思うのだな」
「気が落ち着きます。茶を飲んでいると」
「だから茶はよいのじゃ」
「それでなのですか」
「それでじゃ」
雪斎はここでだ。あらためて元康に問うた。
「尾張にいたことがあったな」
「はい」
「その時はどうじゃった」
元康に顔を向けて直接問うていた。
「織田信長は」
「吉法師、いえ信長様ですか」
「そうじゃ、どういった男じゃった」
「掴みどころのない方です」
まずはこう話す元康だった。
「何を考えているのか、何をされるのかわかりません」
「行動が読めぬか」
「そう言えるでしょうか」
「まあそうかも知れぬ」
雪斎はここでは言葉を濁した。元康に己の考えを悟らせぬ為だ。
「そしてじゃ。そなたから見たあの男はどうじゃった」
「私がどう思われるかですか」
「そうじゃ、素直に申してみよ」
穏やかな口調で元康に告げる。
「ありのままな」
「傑物です」
こう答えた元康だった。
「尾張一国はおろか天下に名を轟かせる方になるでしょう」
「そう見るか」
「はい、今川にとっては恐ろしい相手になるでしょう」
「わかった。それではじゃ」
ここまで聞いて頷いた雪斎だった。そのうえでこう言うのだった。
「そなたの言葉よく覚えておこう」
「そうされますか」
「うむ。尾張の織田、やはりそうか」
元康の言葉を聞いてさらに確信したことであった。そうしてであった。雪斎は今川の為にだ。織田との戦いの用意を必死に進めることになった。
第六話 完
２０１０・８・２３
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