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戦国異伝
第六話 帰蝶その九
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「しかしまあ。あれで明るくて生活は規則正しい方ですし」
「お酒も飲まれないし賭けごともされない」
「そうした方です」
「そうですか。殿は毎朝」
 帰蝶は彼等にはこう言うのであった。そしてである。
 その次の日の朝だ。信長が起きようとする。そこでだ。
「お待ち下さい」
「何じゃ、濃」
 信長は彼女をこの名で呼んだ。
「何か用か」
「馬に乗られるのですか。それとも槍ですか」
「まず馬に乗る」
 信長は造作もないといった調子で帰蝶に返した。
「そうするつもりじゃ」
「左様ですか」
「何じゃ?ついて来るとでもいうのか?」
「はい」
 帰蝶の返答には微笑みが入っていた。
「そうしても宜しいでしょうか」
「姫とは思えぬのう」
 信長は彼女のその言葉にまた笑った。屈託のない笑いであった。
「わしと共に馬に乗るか」
「いけませぬか」
「乗せてもらいたいのではなくて自分で乗るのじゃな」
 信長はここでは先読みをしてみせた。
「そう言うのじゃな」
「私も馬は好きですので」
「姫なのにか」
「蝮の娘です」
 言葉に入っている笑みがさらに深いものになっていた。
「さすればそれもまた」
「そうか。蝮の娘か」
「そして貴方様の妻です」
 こうも言ってみせたのであった。
「さすれば」
「そうか。ならば来い」
 信長は笑ったまま己の妻に告げた。
「しかし服はどうするのじゃ」
「御心配無用」
 こう言うとであった。すぐに着替えるのであった。信長が振り向いたその時には紫の上着に白い袴の麗しい姿でそこに立っていた。
「服はこれで」
「着るのが早いのう」
「戦の場で敵は待ってはくれませぬ故」
 こう言葉を返すのであった。
「さすれば。服もまた」
「ははは、やはりわしの妻じゃな」
 それを見てまた笑ってみせる信長だった。夫婦の寝室の中で顔を崩して笑う。いつもの非常によく笑う信長であった。
「わしも着替えるのは早いがのう」
「そうなのですか」
「戦の場では敵は待ってはくれぬ」
 妻のその言葉をそのまま返してみせたのだった。
「さすればじゃ。服を着るのも早くせねばな」
「左様ですね。では」
「行くか。馬を一頭用意させよう」
「さすれば」
「その後は槍じゃ」
 馬の後にすることも話す。
「それをするつもりじゃ」
「槍ですか」
「刀と槍、どちらが得意じゃ」
「どちらかというと刀が」
 そちらだと返す帰蝶だった。
「それと薙刀を」
「ふむ。薙刀か」
「あれはいいものです。使えば使う程強くなります」
「そうじゃな。あれはいいものじゃ」
 薙刀については信長も述べた。
「そうじゃな。市にでも覚えさせるか」
「市殿にですか」
「あれは美しくなるぞ。薙刀を覚えさせれば映える」

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