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戦国異伝
第六話 帰蝶その八
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「傾くからには只のうつけでは済まぬわ。おおうつけでなければのう」
「では傾いて何をされるのですか」
「天下よ」
 一言であった。
「天下を手に入れる。そうしてくれるわ」
「この尾張だけではなくですか」
「尾張か。小さいな」
 まだ尾張の半分程度しか勢力圏に収めていない。しかも跡も継いではいない。しかし信長はその悠然とした顔で帰蝶にこう言ってみせたのである。
「その程度では終わらぬわ」
「それで天下なのですか」
「天下を治めてみせる」
 また言う信長であった。
「どうじゃ?わしの治めるその天下を見てみるか」
「それはまずはです」
「まずはか」
「殿を見させてもらいます」
 その切れ長の流麗な目で見据えての言葉である。
「それからとさせてもらいます」
「ではそこまでしかと見るがいい」
 信長もまたその目を受けたのであった。
「わしをな。ではじゃ」
「では、ですか」
「夜は長い。共に過ごそうと」
「左様ですか。それでは」
「知っておろう、夜のことは」
「はい」
 それについてはもう言うまでもなかった。この時代の姫というものは輿入れの時にそうした書を読み学んでいた。帰蝶もまたそれは同じであった。
「一応は」
「では共に過ごすとしよう」
 こうしてであった。二人は夜を共に過ごした。こうした日が何日か続いた。そしてその数日の間にだ。帰蝶はあることに気付いたのであった。
 信長の朝は早い。彼女が目覚めればもう床にはいない。夜も遅く彼の眠りが短いことに気付いたのである。
 夜のことはわかる。しかしであった。何故朝が早いのか。それがどうしても気になったのだ。
 それで小姓や女中達に尋ねる。するとこうした言葉が返ってきた。
「馬に乗られています」
「そこから泳ぎに行かれます」
「馬に泳ぎに」
 帰蝶はそれを聞いてまずは首を傾げた。
「この様な朝早くからとは」
「殿は昔から朝が早くて」
「大体こんなものですよ」
 女中や小姓達はもうわかっているという口調であった。
「雨でもそれでも馬に乗られますし」
「あと弓や刀もよくやられます」
「槍もですね」
「身体を動かすというのですね」
 帰蝶はそれを聞いてふと考える顔になった。
「そうなのですか」
「変わってますよね、雨にも馬に乗られて」
「とにかく馬と泳ぎはいつもです」
 彼等は苦笑いと共にこう話すのであった。
「流石に冬は泳ぎませんが」
「とにかく馬は朝と夕にはですね」
「成程、馬を」
 帰蝶はこのことには納得した面持ちを見せた。
「それはまた」
「お陰で馬に乗るのは見事です」
「泳ぐのもです」
「弓もかなり」
「鉄砲もお好きですし」
「鉄砲も」
 鉄砲と聞くとさらにであった。
 帰蝶の顔が変わる。今度は晴れ
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