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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#32 "Central Intelligence Agency"
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【11月2日 PM 2:14】

Side イディス・ブラックウォーター

さて、"私"はどうするべきか。

ロアナプラに於ける唯一の宗教施設にして、私の隠れ蓑たるリップオフ教会。
その敷地内にある礼拝堂の中で一人、"私"は人類の原罪を贖っておられる救世主様に見守れながら考える。
説教檀の上にはいつも通りラム酒の瓶とグラスを置いてはあるが、 それに手は伸びない。
誰かがここに入って来た時を考えて、一応置いておくことにしたのだが飲む気にまではなれない。
"暴力教会の糞シスター"としては失格かもしれないが。

檀の上に置かれたフォックススタイルのサングラスを見つめる。
"シスター・エダ"としてのトレードマークであるこのアイテムは私が思う以上に大きな意味を持ち出したようだ。
本国からこのロアナプラに"帰って来て"リップオフ教会で尼僧服に着替えても、このサングラスを掛けない限り、"私"は上手く"アタシ"になれない。
暴力教会の糞シスターであるところのシスター・エダには。

街の騒動はまだ治まらない。
それどころか益々悪化していく可能性が高い。
シスター・エダとして、また暴力教会としてもこれは歓迎すべき事態と言っていい。
糞シスターなら賑やかなパーティーに喜んで参加するだろうし、武器商たる教会としては良い飯の種だ。

私のロアナプラに於ける隠れ蓑たるリップオフ教会は市内の武器流通の一切を仕切っている。
その為、街の不穏な気配に脅える者、脅えながらも楽しもうとする者、この機会に組織に恩を売ろうとする者、名を挙げようとする者……

動機は様々だろうが、連日うちの教会には武器の注文が殺到している。
求められる武器もそれこそ様々だが。
しかし象撃ち用のライフルはいくらなんでもないだろう。
襲撃犯がどんな奴かは知らないが、あれで撃たれたら人の形なんて残らない。
まあ、撃たれるようなマヌケではないだろうけど。

椅子の背凭れを軋ませ、天井を見上げる。
こうしていても神の声は聴こえない。
一応この教会はヴァチカンにも登記されている正真正銘、神の家なのだけれど。

謎の襲撃犯はホテル・モスクワの関係者ばかりを狙っている。取り敢えず現時点では、だが。
マフィア同士の抗争など、この街では今更騒ぎ立てる程のものではない。
標的がロシア女だとしても、一向に構わない。好きに殺し合えばいい。
ただし"やり過ぎ"ない程度に。
間違ってもこの街で戦争など起こしてもらっては困るのだ。

この街が荒れるということは、"黄金地帯"にも影響が出るということ。
タイ山奥にある麻薬の一大拠点に。
"本国"の関心は"テロ"との戦いにある。"麻薬"との戦いなど押し付けられても、喜ばれはしないだろ
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