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戦国異伝
第十七話 美濃の異変その十五

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「幸いなことじゃ」
「ではその御子息に」
「やがては美濃を」
「美濃だけではないな」
 温かい声になっていた。まさに父の声だ。
「それより上じゃ」
「では天下の夢も」
「あの方に」
「授けることになるな。それではじゃ」
「では。今より」
「戦としましょう」
「我等の。最後の戦ですな」
 家臣達は一斉にそれぞれの場に向かった。皆鎧を着、そして刀や槍を手にした。道三は遂に最後の戦いに向かうのであった。
 そしてだ。信長はこの時一万の軍を率いて美濃に向かっていた。
 青い軍が一直線に美濃に向かう。彼はその中で言うのだった。
「急ぐのだ、よいな」
「はっ、無論です」
「できる限りの速さで美濃に向かっております」
「御安心を」
 こう答える家臣達だった。しかしであった。
 森可成がだ。ここで信長に言ってきたのであった。
「ですが殿」
「義父殿のことじゃな」
「はい、我等はこうして向かっていますが」
「わかっておる」
 信長は正面を見てそのうえで静かに述べた。
「どうあがいてもじゃ」
「間に合いませんな」
「鷺山の兵は少ない。それに対して稲葉山の兵は多い」
「六倍の差があるかと」
「しかもじゃ」
 道三が何をするか。信長はこのこともわかっていた。
 それでだ。こう言うのだった。
「義父殿は命が惜しくない者だけを残される。家族を持っている者は最初から帰らせてな」
「ではその数は」
「相当少ないですな」
「千もいないでしょう」
「それで一万二千の大軍と向かうとなると」
「如何に蝮殿とはいえ」
「それでは」
「死ぬな」
 ここでは一言だった。
「間違いなくな」
「ですがここは何としても急ぎです」
「道三殿をお救いしましょう」
「そうされますね」
「無論。諦めるつもりはない」
 信長の今の言葉は強いものだった。
「何があろうともじゃ」
「では。意地でも美濃に向かい」
「そして道三殿をお助けしましょう」
「それで宜しいですな」
「うむ、そうするぞ」
 また言う信長だった。
「いざ、美濃にだ」
「はい、それでは」
「今より」
 こうしてだった。青い軍勢一万が美濃に向かうのだった。道三の最期の時が近付いていた。だがそれでも彼等は向かうのだった。あえて。


第十七話   完


              2010・11・26
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