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戦国異伝
第十六話 正装その四

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「あの者が来てからのう」
「津々木という者一体」
「あれは何者じゃ」
「出自が知れぬ」
「何処に生まれ何をしていたのか」
「さっぱりわからぬぞ」
 誰もがだった。津々木の話をすると怪訝な顔になるのだった。とにかく誰も彼のことを一切知らない。まさに謎の男なのである。
 それでだ。彼等は津々木に対して不気味なものを感じていく。そうしてだった。
 坂井が言ってきた。やはり彼も怪訝な顔になっている。
「若しやだ」
「うむ、太善殿」
「貴殿は何と思われる」
「あの者は」
「他の国からの草ではないのか」
 それではというのだ。草とは敵国に入り込みそこに根をはりそうしてそこで動き情報を流したり工作を行ったりする。所謂密偵である。坂井はそれではというのだ。
「若しや」
「それは否定できませんな」
 生駒が坂井のその言葉に応えて述べた。
「やはり」
「そう思うか」
「何しろこの尾張においても普段何をしているのかわかりませぬ」
「家はあるがのう」
「家族もわからぬ」
 とにかく何もかもがなのだった。
「あそこまで何もわからぬ者はおらぬな」
「全くじゃ」
「しかもあの服」
「あれものう」
「奇怪な話じゃ」6
 今度は彼のその服についてであった。
「あの黒は一体」
「上杉の黒でもない」
「尋常な黒ではないな」
「左様ですな」
 木下秀長もいた。彼もまた兄と共に信長の前に出られるようになったのである。彼はその裏方での才覚が認められたのである。信長はそうしたところも見ているのだ。
「強いて言えばあれは」
「あれは?」
「あの黒は何なのじゃ」
「何処かで見たのじゃがな」
「不気味な色じゃ」
「闇かと」
 木下秀長はそれではと言うのだった。
「あの黒は」
「闇か」
「それか」
「あの黒は」
「何処かで見たかと思っていたが」
「闇だったか」
 彼等もそれでわかったのだった。その津々木の服の黒が何かを。それは上杉の黒や墨の黒とはまた違っていた。そうした黒だったのである。
「それであったか」
「しかし」
 ここでいぶかしんだのは山内だった。
「普通の者が闇の色なぞ身に着けるであろうか」
「ありませぬな」
 長谷川が山内の疑念に応えた。
「黒はあっても闇は」
「尋常な趣味の者ではない。いや」
「そうだな」
 大津が野々村の言葉に言う。
「何かよからぬものを感じるな」
「そうだな」
 野々村も頷く。彼等はそれぞれその闇によからぬものを感じていた。
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