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戦国異伝
第十五話 異装その十二

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「経験を積めばだ」
「それによってですか」
「戦でも政でもだ。わかるものなのだ」
「では殿と同じく」
 竹中は道三の今の言葉からだ。信長も見てそれで言う。
「織田殿も」
「そうよ、おそらくな」
「左様ですか」
「では。見るか」
 いよいよだった。それでだ。
 誰もが姿勢を正す。しかし道三だけはだ。
 くつろいだ面持ちでだ。婿を待つのだった。そしてこうも言うのだった。
「帰蝶もだ」
「はい」
「帰蝶様が一体」
「どうやら婿殿に惚れたようだしな」
「あの帰蝶様がのう」
「気の強い方だが」
「気は確かに強い」
 父である道三の言葉だ。
「しかし帰蝶はだ。あれで認めた相手にはだ」
「惚れられる」
「そうだというのですね」
「左様、それが帰蝶よ」
 こう言うのである。
「認めればだがな。あれは気が強いだけでなく鼻っ柱も強いからのう」
「一体どうした方に嫁がれるかと思ってましたが」
「尾張の織田殿でしたから」
「まさかと思いましたが」
「帰蝶様の婿に相応しい方のようですな」
「うむ」
 三人衆と不破の言葉に頷く道三だった。
「実にな。して十兵衛」
「はい」
「そなた相変わらず妻は一人か」
「はい、そのままです」
 それは変わらないというのだ。この時代少し地位があれば誰でも側室は持っていた。しかし明智はそうではないというのである。
「どうも。側室はです」
「好かぬか」
「一人いれば充分です」
 そうであるというのだ。
「私には過ぎた妻ですし」
「だからか。それでよいのか」
「私だけでなく母のこともよく見てくれます」
「相変わらず親孝行なのだな」
「母はこの世で一人だけです」 
 明智は己の母については強く言うのであった。
「ですから。どうしても」
「よいことだ。親は大事にせよ」
「有り難き御言葉」
「この時代、親といえど中々大事にはできぬ」
 道三はここで顔を曇らせた。
「だから余計にだ」
「大事にせよと仰るのですね」
「そういうことだ。そしてだ」
「そして?」
「細川殿もそうだが」
 彼も見ての今の道三の言葉だった。
「幕府にいるよりもだ」
「はい」
「それよりもと仰いますか」
「他の家に仕えるべきではないのか」
 こう言うのであった。二人を見ながらだ。
「今の公方様はいいにしてもだ」
「最早幕府には、というのですね」
「力は」
「力を取り戻すのは最早無理だ」
 道三は言い切った。幕府にもう力はないとだ。
「朝廷と違いだ。盛り立ててもそれは至高のものではないからな」
「限度がある」
「そう仰いますか」
「そうだ」
 まさにその通りだというのだ。
「だから他の家も考えておけ」
「そのことですが」
 明智がここで言う。
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