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万華鏡
プレリュードその二

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「もうね」
「じゃあ今日からは」
「始業式よ」
 こう言うのだった。
「さあ。わかったら起きなさい」
「うん。もうちょっと寝たいけれど」
「何言ってるのよ。どれだけ寝たと思ってるのよ」
「七時間半?」
「八時間半よ」
 それだけだというのだ。
「それだけ寝れば充分でしょ」
「ううん。せめて九時間は」
「寝過ぎ。後は帰ってから寝なさい」
「仕方ないなあ。それじゃあ」
「起きるのね」
「あと五分」
 こうきたのだった。
「五分だけ待ってよ」
「待つと思う?」
「やっぱりそうしてくれないわよね」
「当たり前でしょ」
 母は今度は少し怒った顔で娘に告げた。
「その五分が致命的なロスになるのよ」
「何か軍隊みたいなこと言うわね」
「ミリミリと詰めて行動しろ、よ」
 母は実際に陸上自衛隊でよく言われる言葉を出した。
「わかったら起きなさい。いいわね」
「わかったわよ。それじゃあ」
 ここでだ。やっとだった。 
 この娘、月宮琴乃は起きた。見ればだ。
 黒いさらりとした絹を思わせる光沢のあるロングヘアにアーモンドを横にした様な形のはっきりとした目を持っている。眉はしっかりとしていて横に切れている。鼻は丸い感じで高さは普通だ。
 口は大きくピンクの唇は薄い。背は一六〇程でスタイルは足が見事で全体的にバランスがいい。寝巻きはピンクの花柄のパジャマだ。その彼女が言うのだった。
「起きるから」
「起きてすぐに着替えてね」
「高校の制服によね」
「まさか中学の時の制服着ていくつもり?」
「そんな漫画みたいなことしないから」 
 言いながらベッドから出る。
「まさかね」
「じゃあいいわね」
「わかってるわよ。じゃあ起きて」
「制服を着てね」
 母は琴乃にまたこうしろと言う。
「それかよ」
「御飯よね」
「早く食べなさい」
「朝御飯何なの?」
「トーストよ」
 つまりパンだというのだ。
「それと牛乳とサラダと」
「目玉焼き?」
「それでいいわよね」
「じゃあトーストの間にサラダと目玉焼きを挟んで」
 母の話を聞きながらベッドから出て来てだった。琴乃は言ってきた。
「食べるから」
「そうしなさい。牛乳が嫌だったらね」
「野菜ジュースね」
「どっちにするの?」
「じゃあ野菜ジュース」
 琴乃が選んだのはこちらだった。
「それ飲むから」
「わかったわ。じゃあお母さん用意しておくわね」
「お願い。すぐに行くから」
「それにしても。始業式からこうなのね」
「こうなのねって何なのよ」
「あんた寝起き悪過ぎるわよ」
 母は部屋の扉に向かいながら娘に言う。このことを。
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