第16話 初めての失敗と…
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「やっぱり、あの時見たのがジュエルシードだったのかな……」
すずかは夜になりひっそりと静まり返った廊下を歩く。考えるのは今日突然現れた巨大な大樹と、自分の見たジュエルシードのような宝石について。
あの樹が消えた後、なのはたちが戻ってきて聞いた話によれば、今回の騒動の原因はあのキーパーの少年だった、との事。
ならば自分の見ていたものはやはりジュエルシードだったのか……。何度も考えたが、やはりそう結論せざるを得ず暗い顔になってしまう。
「それに……」
帰ってきた後、なのはと純吾の距離が縮まっていたような気がする。
いや、元々仲が悪い、と言う事は無かったのだが、何か今まで以上の、全幅の信頼を純吾に寄せているような感じがした。
そう言えば、初めてジュエルシード探索をした時からアリサの事も名前で呼び始めていたか。
様々な考えが頭の中に千々に乱れては浮かび、そして消えていく。
そんなもやもやとした感情を抱きながら歩いていると、ふとどこからかすすり泣くような声がすずかの耳に飛び込んできた。
「こっちって、純吾君の部屋だよね……」
声の聞える方向へ若干足を早めて進み、声が聞こえてくる扉の前に立つ。
思った通り、そこは純吾の部屋の扉だった。
音をたてない様に扉を少し開け、中を見る。
純吾は、ベッドの上で崩れ落ちる様にして座って、顔をリリーの体にうずめ、声が漏れない様にして泣いていた。
リリーも常とは違い、無言のまま慈母のような雰囲気を纏って純吾を支え、背中に手を当てて赤子をなだめるように優しくゆっくりとした手つきでたたいている。
その光景をすずかは、初めどうしてそうなっているのか理解できなかったが、すぐに理由が頭の中に閃く。
彼は大樹によって壊れた街並みを見て、自分が元いた世界を思い出してしまったのだ。
すずかは彼から伝え聞くしかなかったが、純吾の世界はある日突然世界の終りが訪れたという。
崩壊した自分の故郷、生死すら分からない多くの友人知人。そして、そんな地獄を共に生き延びた仲間の安否。
今まで立て続けに色々な事があったため思い出す暇もなかったそれらの事が、あの光景を見て思い出してしまったのだとすずかは彼の考えを推し量る。
けれどもそれを悟らせまいと悲しみを上回る怒りで自分をごまかし、自分が泣きだしたいのを偽ってなのはを慰め、そうやって彼が仲間と、友人と認めた人たちを悲しませまいとしたために、今の今までずっと我慢をしていたのだろう。
――自分たちは、彼に頼ってばかりで、何かを返す事が出来るのだろうか?
すずかは扉を閉め、呆然とその場に立ち尽くす事しか出来ないのであった。
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