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MUV-LUV/THE THIRD LEADER(旧題:遠田巧の挑戦)
閑話V 夕呼の歩む道
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析し敵の行動理念を知るためにはこれまでよりも遙かに高性能なコンピューターがいる。そしてそれを成しうる理論が夕呼の因果律量子論である。この理論が実証されれば圧倒的な処理能力を持つ並列コンピューターができる。その演算能力を持ってあらゆる事象を観測し統計を出せば…。
 今回夕呼を帝大に招いた政府のオルタネイティブ誘致計画委員会はそう考えていたのである。



 さしもの夕呼もその壮大な計画に自分の論文が使われる可能性があると聞き驚愕していた。
「まだ帝国のオルタネイティブ第四計画案は決まっていない。今有力だと言われているのは君の因果律量子論を使うものと、帝大の応用生物科学研究室の後藤教授が推し進めているBETAブリット、つまり人間を含めた既存の生物とBETAのキメラを作ることでBETAに対抗する策を編み出そうという計画だな。どちらも途方もない計画だが…。」
 夕呼は榊の話を聞いて考える。結局のところ夕呼の生み出す高性能コンピューターを使ったBETAの解析も、後藤教授が進めているBETAブリットも、それぞれオルタネイティブ第一、第二計画の焼き直しである。もちろん時代が進み技術も研究も進んでいるので何かしら発見できる可能性はある。しかし、当時巨費を費やしても実質何も分からなかったのだ。同じような方法で確信に迫れるとは思えない。
「榊さん……私は今のまま研究を進め、仮に政府が求める性能のコンピューターを作れたとしても、計画は成功しないと思います。」
「…どうしてそう思うのかね?」
「結局第一計画の焼き直しだからですよ。人間が考えるか、コンピューターが解析するかの違いだけです。もしそれで何か分かったとしても、それは精々短期的なBETAの動向だけです。とても戦況を覆すものとは思えません。」
 先の話を聞いて夕呼が理解したこと。それは人類にはもう時間がないということだ。BETA戦争の情報は徹底的に統制され、夕呼を含めた多くの市民は状況など知りようもない。しかし夕呼は知った。ソ連のESP能力や夕呼の因果律量子論などという眉唾物に縋らざるを得ないほど人類は追いつめられているということを。
 人類が滅ぶ、そう思うと夕呼は自分の目が覚める思いだった。今までつまらなく見えた世界が美しいものに見えてくる。これまで下らないと思っていた人々の営みがかけがえのないものに思えてくる。それまで当り前と見下してきたものがいかに大切なものなのか、稀代の天才は初めて実感したのであった。
「榊さん…私は第三計画の接収を提案します。」
 救世の聖女が自らの使命に目覚めた瞬間であった。


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