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MUV-LUV/THE THIRD LEADER(旧題:遠田巧の挑戦)
閑話U 岩沢慎二という男
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て彼はただの『金持ちの息子』というだけの凡人だった。
 家族から徴兵の話を聞いた時、彼は都合がいいと思った。兄は優秀で交渉力や経営力においては傲慢な慎二も認めるところである。そして長男である兄は今後この家の中心に立っていくだろう。慎二は二番手に甘んじることになる。地位も金も兄ものもの。ならば自分は違うステージで名を上げれば良い。衛士になって英雄にでもなれば、地位も金も女も思いのまま。兄に負けない力を得るだろう。そんな馬鹿馬鹿しい人生設計を彼は本気でしていた。
 しかしそんな思惑は当たり前のように崩れる。訓練校は彼にとって地獄だった。教官から浴びせられる罵詈雑言、年下の仲間に向けられる同情や嫌悪の入り混じった見下した視線。金持ち次男の凡人、徴兵から逃げ続けてきた腰抜け、プライドだけ高い道化、それが周囲が持つ彼の評価だった。そんな状況は耐えがたかったが、家に逃げ帰ることはできない。そんなことをすれば親族は身内の恥として慎二を扱うだろう。家柄こそアイデンティティーだった慎二にとって、それを失うことは何よりも恐ろしかった。
そんな環境に最初こそ反発していた慎二だったが、それを覆す実力も気概も無いため、いつの頃からか卑屈に屈辱に耐える日常を送るようになり、金をばら撒くことで機嫌を取るようになってしまい、ついには『分隊の財布』とまで言われるようにまでなっていた。
 だが彼はその待遇を良しと思っていたわけではない。保身のために媚びへつらっているものの、性根は元のままである。機会があれば復讐するつもりでいたのだ。
 基礎訓練を二年かけて合格した慎二は、衛士適正試験も何とかパスした。適正は下の中、D評価である。実戦で戦う衛士には最低C評価は必要とされる。D評価は『長時間の実戦機動は難しいが乗れないことはない』という正に最低限のものである。慎二は自分を凡人に産んだ親を恨んだ。
 そんな鬱屈した感情を持ったまま、戦術機教練が始まった。そこでも慎二の扱いは変わらない。あだ名は『七光』、または『落ちこぼれ』。そんな生活が続く中でそれまで耐えてきた慎二も限界を迎えようとしていた。仲間たちが気を配っていれば彼の様子がおかしいことに気づいただろうが、慎二を思いやる仲間はいなかった。そして事件は起きた。
 それはシミュレーターによる基礎課程が終了し、実機での応用課程に入ったときのことである。訓練中に分隊長の戦術機がバランスを崩し倒れた。別にそれだけでは問題になることもなかったっが、眼の前で倒れこんだ分隊長を見た慎二に悪魔が囁いたのだ。いつも自分を虐げ、見下してきた分隊長が今、自分の目の前で無防備に倒れている。それを認識した瞬間に慎二は無意識に行動に出ていた。跳躍ユニットで機体を浮かし、その落下を利用して右主脚部を胸部のコックピットに叩きこんだのである。教官が即時に操縦管制を奪っ
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