第十話 権天その三
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「しかしな。それでもじゃ」
「神にはまだ及ばないか」
「焦らぬことじゃ」
博士は言う。
「じっくりとな。そこに迫ればいい」
「わかった」
牧村もその言葉に頷いて答える。
「では焦らないでいこう」
「焦ったら何でも負けじゃよ」
博士の今度の言葉は人生経験を漂わせる深みのあるものであった。
「じゃからな。それは止めておいてじゃ」
「それだけはか」
「それだけはというと他にも色々とある」
今度もまた人生を味あわせる言葉であった。
「他にもあるが焦らないことはな」
「必須か」
「そう思ってくれればいい。そのうちの一つじゃよ」
やはり人生を見せる言葉であった。伊達に歳を取ってはいないということであろうか。そしてその言葉と共に彼はさらに言うのであった。
「そしてじゃ」
「そして?」
「楽しむことも必要じゃよ」
「闘いを楽しめというのか?」
「それとはまた違う」
闘いに関してはそうではないというのである。
「闘いとはまた別にな。楽しみを見つけるということじゃよ」
「そういうことか」
「左様。例えばじゃ」
この言葉と共に妖怪達が二人にすっと出してきたのはお菓子であった。それも今度は見事なチョコレートのデコレーションケーキであった。
「こういうものじゃよ」
「今度はケーキか」
「美味しそうでしょ」
「山月堂だよ」
「あそこは和菓子屋だったと思うが」
牧村は山月堂と聞いてその目を妖怪達に対して向けた。
「違ったか」
「和菓子だけじゃないから、あそこは」
「ケーキもあるよ」
「そうだったのか」
言われてあらためてそのケーキに顔を向ける牧村だった。
「洋菓子もあるのか、あそこには」
「嫌いか?」
「いや」
その問いに対しては首を横に振る。
「かなり好きだ」
「そうか。それは何よりだ」
「チョコレートもな」
それもいいというのである。
「いいものだ」
「それなら問題はないのう。で、飲むのはじゃ」
「コーヒーがいいな」
牧村はケーキを見つつ述べた。
「今はな」
「コーヒーなのか」
「チョコレートにはコーヒーだ」
こう述べるのであった。
「俺にとってはな」
「ふむ。いい趣味じゃな」
博士もそれを聞いて納得した顔で頷くのだった。
「チョコレートにコーヒーか」
「黒と黒になるがな」
「それもまたよいことじゃ」
応えながらその白髭だらけの顔を綻ばせてきた。
「ではわしもそうするか」
「そうか」
「うむ。実は今までは紅茶だったのじゃがな」
「それも悪くはない」
牧村はそれについても否定しなかった。
「紅茶は洋菓子ならば何にでも合う。イギリス人の珍しい当たりの飲食物だ」
「全くだよね」
「イギリスの料理なんて食べられたものじ
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