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銀河英雄伝説〜その海賊は銀河を駆け抜ける
第一話 黒姫
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帝国暦 487年 3月19日    巡航艦バッカニーア  カルステン・キア



『本日、ラインハルト・フォン・ローエングラム伯爵がアスターテ星域会戦の勝利により元帥に昇進、同時に宇宙艦隊副司令長官に親補されました』
正面スクリーンに映る男性アナウンサーが無表情にローエングラム伯の元帥昇進を報道している。色気が無いよな、フェザーンだったら若い美人のお姉さんがニコニコしながら報道してくれるのに……。

「凄いっすね。二十歳で元帥ですか」
「まあ皇帝の寵姫の弟だからな、姉の七光りだよ、キア」
「でも戦争では勝ちましたよ、ウルマン」
「まぐれと言う事も有るさ」

俺達が喋っている間、親っさんは黙ってココアを飲みながらスクリーンを見ていた。何時も思うんだけど親っさんってクールだよな。慌てるとか興奮するとか全然無いんだから。スクリーンに映っているローエングラム伯も凄いけど親っさんも凄いや。

この金髪さんは二十歳か……。親っさん、今は二十一だけど、四月で二十二歳だったよな。偉くなる人ってのは若い時から何処か違うんだな、親っさんを見ていると本当にそう思う。俺も何とかあやかりたいもんだ。頭領は無理だけど船団長くらいにはなりたい。あとどれくらいかかるんだろう……。

「親っさん、親っさんはローエングラム伯をどう思いますか?」
俺が声をかけると親っさんは黙って俺を見た。あー、表情が無いな。どうやらまたあれが始まるみたいだ、好い加減親っさんにも慣れて貰わないと困るんだけど……。

「……カルステン・キア、その親っさんと言うのは止めなさい」
「はあ」
やっぱり始まったよ。俺が周囲を見渡すと皆も困惑している。多分俺と同じ事を考えているはずだ。

「私の事は司令と呼ぶように、いつもそう言っているはずですよ」
「そうですけど……、俺達、海賊ですよ。それに親っさんは海賊黒姫一家の頭領です。昔から頭領は親っさんと呼ぶのが俺達のならわしですけど……」
これ、何回目だろう、俺が抗議すると親っさんは切なそうに溜息を吐いた。勘弁してくださいよ、親っさん。溜息を吐きたいのは俺の方です。

俺、悪くないよね。でもさ、親っさんは華奢だし顔立ちが優しげなんだよな。そんな親っさんに切なそうに溜息を吐かれると……。なんか俺、すげぇー悪人みたいで泣きたくなるよ。俺だけじゃない、皆同じ事を言っている。勘弁してくださいよ、親っさん。俺達、親っさんに比べたらずっと善人ですよ。

親っさんは今売り出し中の宇宙海賊“黒姫の頭領(かしら)”なんです。この業界じゃバリバリの顔役なんですよ。何処の頭領(かしら)だって親っさんには一目置きます。先日の総会じゃ帝国中の海賊が集まりましたけど皆親っさんには随分と気を遣っていましたよ。
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