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渦巻く滄海 紅き空 【下】
八十三 シカマルVSペイン天道
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────アイツと出会った瞬間、無色透明な世界は色づいた。


夕闇が迫る。公園の遊具から長い影が更にのびていく。俺の影に、大人の影が重なる。
毎日夕方頃になると、母ちゃんの命令でしぶしぶ迎えに来る親父に、手を引かれて帰る。
そこで俺はいつも後ろ髪を引かれる。

公園の中心で、未だ佇む存在に。

一度だけ振り向いて、見た光景が脳に焼き付いた。

黄金に染まる髪。小柄な体。逆光で顔は見えないが、気を抜くと消えてしまいそうな儚い雰囲気が漂う。 
俯きながらも、こちらをじっと窺う子ども。

その光景に、何故かドクリと、心が打たれた。

アレを見て以来、その子に会うためだけに、俺はこうして来たくもない公園へ足を運ぶ。
普段なら、家の縁側でぼーっと雲を眺める俺が、漕ぐわけでもないのにブランコに座り、滑るわけでもないのに滑り台の天辺まで登る。

何の用事もないのに公園にいる自分を不思議に思ったのだろう。
目的の相手ではないが数人の子どもが寄ってくる。適当に相槌を打っていると、彼らは誘ってきた。

「なぁなぁ、今から狐狩りに行くんだけど一緒に行かねえ?」

言葉の意味を判じかねて、俺は適当に口癖ではぐらかした。

「メンドクセー」

断りの言葉を口にして、彼らと別れる。そいつらが言った言葉の意味も内容にも、その時は何の疑問も抱かなかった。


そして、空を見上げる振りをしながら、あの子の気配を探る。
けれど妙なことに、どういうわけか会えない。
毎日のように公園でブランコをひとりで漕いでいたはずなのに、と何故だか無性に心がざわつき始めた頃。

俺はようやくアイツと出会った。
思いもしない場所で。


公園から少し離れた場所には、ほとんど森と化している広場がある。
俺に狐狩りを誘ってきた子ども達がよく利用している場所だ。其処は木々に周囲を囲まれているため、昼間でも暗い。
だから夜に近い今の時間帯では闇同然。
しかしその場所にいつもとは違う違和感を覚えて、俺は暗がりの方へ進んだ。

広場の隅。ソコにはいつ出来たのかぽっかり落とし穴が出来ていた。
穴を覗き込んで、思わず息を呑む。

ずっと捜していた当の本人が膝を抱えてうずくまっていたから。

いつからそこにいたのだろう。
そういえば、最近できた友達が「狐狩りに行こう」だなんて誘ってきてから姿を見なくなっていた。
けれどあれは二日前だ。

まさかとは思うが、二日間、ずっとこの穴の中にいたのだろうか。
落とし穴に落とされ、こんな暗がりでひとり、助けを求めず。
泣くことも、助けを呼ぶこともせず。
ずっと、ひとりで。

ふつふつ、と怒りが沸き上がる。子どもがちょうどよじ登れない深さだが、誰かが引っ張り上げれば脱出できる穴だ。
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