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前の社長を追い出すと
第一章

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                前の社長を追い出すと
 その取引先の会社の話を聞いてだ、八条物産京都支社の支社長トーマス=キーン黒髪をセットした彫のある顔立ちで青い目の長身痩躯の彼は言った。
「取引止めましょう」
「そうしますか」
「はい」
 専務の栃木武士一八〇近い背で穏やかな面長の顔で黒髪をオールバックにしたやや太った初老の男性である彼にこう言った。
「もう」
「業績はいいですが」
「今は、ですね」
「将来は、ですか」
「あの会社はもう駄目です」
「社長が交代しましたが」
「前社長を追い出しましたね」
 キーンは栃木にこう返した。
「そうですね」
「どうやら」
 栃木も否定しなかった。
「その様です」
「専務の浅墓隆と従弟の長谷川和博が」
「あの二人がそれぞれ社長副社長になりましたが」
「もうそれで、ですか」
「取引はです」
「止めて」
「そして別の企業とです」
 そちらと、というのだ。
「その分野においては」
「取引をしますか」
「そうしましょう」
「社長が交代して業績が鰻上りでも」
「前社長の時は慎重で堅実過ぎてそれなりでしたが」
「それでもですね」
「止めましょう、そして前の社長さんには娘さんがおられますが」 
 キーンは彼女のことも話した。
「今大学生で就職活動中ですね」
「そうしています」
「こちらに声をかけましょう」
「そうしますか」
「はい、いい娘と聞いているので」
 だからだというのだ。
「そうしましょう」
「では人事に話しておきます」
 栃木はそれならと応えた、こうしてだった。
 八条物産京都支社はその企業との取引を止めた、社長交代かあ業績が凄まじい勢いで伸びている企業なので誰もが不思議に思った、だが。
「おい、あそこ酷いらしいぞ」
「社長と副社長のパワハラとモラハラが」
「給料が減って残業がとんでもなく増えて」
「滅茶苦茶ブラックになったらしいぞ」
「社長と副社長が会社を徹底的に私物化してるらしいな」
「会社の金を横領してるのか」
「他にも色々あるのか」
 こうした話が出て来た、その企業から。
「酷いことになってるんだな」
「じゃあ取引止めるか」
「八条物産もそうしたしな」
「やばい企業とは付き合うな」
「社員もどんどん辞めていってるし」
「そうするか」
 京都の企業は次々とだった。
 その企業との取引を止めた、そして社員が労働基準監督署や警察に通報してブラックな労働状況や横領が明らかになってだった。
 社長と副社長は捕まり企業は破綻した、それを見てだった。
 栃木はキーンにだ、共に食事を摂っている時に言った。
「こうなることは、ですね」
「わかっていました」
 キーンははっきりとした声で答えた。
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