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歯医者は行け
第一章

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                歯医者は行け
 八条自動車の福岡の工場で管理職をしている金森栄吉は太い眉とラテン系の感じの濃い目と微笑んだ形の唇を持っている、黒髪は縮れていて短くしている。背は一七〇位で引き締まった体格をしている。
 その彼を見てだ、部形は今囁いていた。
「いつも通り優しくて親切で」
「温厚だけれど」
「笑顔減った?」
「何か我慢しているみたいな感じだよな」
「いつもにこにこしている人なのに」
「どうしたのかしら」
 部下達はそんな彼を見ていぶかしんでいた、そして。
 上司の工場長黒田与一、ストレートヘアで痩せてコリーの様な顔をした長身の彼も金森にこう言った。
「何かあったのか」
「いえ、別に」
「いや、あったな」
 黒田は金森の表情を見てすぐに察した。
「やはり」
「本当に何もないです」
「目が泳いでいる」 
 彼のその異変を指摘した。
「そうなるとな」
「気のせいかと」
「違うな、家庭かお金か」
「どちらでもないです」
 目は今度は泳いでいなかった、そのうえでの言葉だった。
「家庭円満で」
「お金もか」
「困っていません」
「目が泳いでいないな」
 黒田は今度はこう言った。
「では問題なしか」
「ですから何もないです」
「また泳いでいるが」
 目がというのだ。
「やはり何かあるな」
「ですから何も」
 金森はあくまでこう言った、黒田はそんな彼にいぶかしんだが仕事では問題なくしかも家庭もお金も問題ないとわかったのでだ。
 これ以上はプライベートにも関わると思って言わなかった、金森は職場ではそれで終わった。だが家では。
 夕食の時にだ、妻の佐和小柄で丸顔で大きな垂れ目をした黒髪をおかっぱにした胸の大きい彼女に強い声で言われた。
「予約取ったわよ」
「取らなくてもいいのに」
「あんたがずっとそうしたこと言うからよ」
 夫に鯖の煮付けを食べつつ言った。
「もう私も我慢の限界なのよ」
「それでなんだ」
「連れて行くから」
 何があってもという言葉だった。
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