第一章
[2]次話
尊敬するからこそ
近鉄バファローズにドラフト二位で入団した大石大二郎は入団二年目で新人王を獲得した、小柄ながら俊足で守備もよくしかもパンチ力もあった。
そんな彼なので忽ちレギュラーになった、その彼にある新聞記者がこんなことを尋ねた。
「尊敬するプロ野球選手は誰かな」
「福本豊さんです」
大石は記者に即座に答えた。
「あの人です」
「阪急のかい」
「はい、そして福本さんからです」
大石は自分から言った、それも強い声で。
「盗塁王のタイトルを奪います」
「えっ、尊敬する人からかい?」
記者は大石のその発言に驚いて思わず聞き返した。
「タイトルを奪うのかい」
「尊敬しているからです」
これが大石の返事だった。
「福本さんが現役で凄い時にです」
「盗塁王のタイトルを奪いたいのかい」
「福本さんに勝ちたいです」
「尊敬する人に勝つか」
「そうしたいです、尊敬する人に勝つって凄いですよね」
「目標を越えることだからね」
記者もそれはと答えた。
「やっぱりね」
「はい、絶対にやってみせます」
こう言うのだった、だが。
当時福本は言わずと知れた世界の盗塁王だった、十三年連続で盗塁王を獲得し千盗塁にも届こうかとしていた。
この年、昭和五十八年も盗塁王のタイトルは彼のものだと殆どの者が思っていた。
「流石にそろそろベテランでもな」
「それでも福本以上の足の人間はいないだろ」
「今年も福本だな」
「パリーグの盗塁王は他にいないぞ」
「大石がいくら頑張っても福本には勝てないぞ」
「格が違うぞ」
こう言う者が殆どだった、だが。
大石は本気だった、新人王を獲得した翌年その昭和五十八年にだ。
彼は近鉄の一番打者となった、そしてまずはだった。
出塁した、そして塁に出るとだった。
彼はすぐに走った、俊足だけでなくだ。
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