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勝利の枝
第一章

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               勝利の枝
 十二世紀のフランスの話である。
 アンジューに領地を持つ伯爵家の主ジョフロア、見事な金髪に強い光を放つ青い目に逞しい長身の彼がだ。
 この時出陣して山道を進んでいたが。
「険しいですか」
「ここはまた極めて」
「山ばかりです」
「歩くだけでも辛いです」
「馬も難儀しています」
「致し方ない」
 伯爵は兵達に難しい顔で答えた。
「戦はただ戦の場で戦うだけではない」
「こうした場所も進む」
「例え如何なる道でも」
「そして戦の場に辿り着く」
「それもですな」
「戦だ、だからだ」 
 そうであるからだというのだ。
「ここは敢えてだ」
「この山道を通り」
「岩にも負けず」
「そうして戦の場に向かう」
「そうすべきですな」
「苦難を乗り越えてこそ栄光がある」
 伯爵は兵達にこうも言った。
「そして神は苦難に向かう者こそ助けられるな」
「確かに」
「栄光はそうであってこそ掴めるものです」
「そして神はそうして下さいます」
「そうだ、だからだ」
 そうであるからだとだ、伯爵は自ら先頭に立ち足場の悪い山道を進みながら言った。その手には自分が乗る馬の手綱があって馬も傍にいる。
「いいな」
「はい、それでは」
「このまま進みましょう」
「この山道を」
「岩場を」
「そうするぞ」
 こう言ってだった。
 伯爵は兵達を率いて山道を進んでいった、だが。
 その中でだ、彼は大きな岩の上にだった。
 エニシダの木を見た、その木は大きな岩に根を張ってしかとそこにあった。そうして満開であったが。
 その木を見てだ、伯爵は言った。
「こんなこともあるのか」
「ここには一本の木もなかったですが」
「山に入ってから」
「それでもです」
「この様な場所に木があり」
「見事に立っていてです」
「花まで咲かせてだ」
 そしてというのだった。
「しかも満開だ」
「奇跡ですね」
「これこそ神がもたらされた奇跡です」
「左様ですね」
「これは」
「こうしたこともあるのか、それならだ」
 伯爵はさらに言った。
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