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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第93話 カプチェランカ星系会戦 その4
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 宇宙歴七九〇年 二月二八日 〇一〇〇時 ダゴン星域 カプチェランカ星系

 戦局は大きく、より過激に動きつつある。

 第四四高速機動集団に右脇腹を突かれた帝国軍中央部隊は後方支援艦艇の逃散も加わって継続戦闘能力を失いつつある一方、第三五三独立機動部隊と第四一二広域巡察部隊はメルカッツ艦隊の近接戦闘によりほぼ壊滅した。 
メルカッツ艦隊は両部隊が維持していた宙域を制圧。第八艦隊と、別動隊と対峙している第三五九・第三六一両独立機動部隊の間隙に火力投射を行い、各個撃破を狙いつつある。

 現時点でどちらが優勢であるかははっきりしない。双方が太極図をより複雑化したような動きになりつつあるのは確かだ。数で言えばやや帝国軍側が優勢だが、増援の面から考えれば第一〇艦隊の到着が見込める同盟軍が有利と見えないこともない。何しろ帝国軍はイゼルローン要塞駐留艦隊の次期交代部隊(と想定される)ヴァルテンベルク艦隊も戦線に投入している。これ以上の増援は他の星域の防衛戦力を抽出することになり、戦略的にもイゼルローン回廊出口周辺宙域の安全を確保できなくなると、帝国軍が考えてもおかしくはない。

 同盟軍としては負けない戦いをして第一〇艦隊の到着まで耐えられればいい。そう踏んで第四四高速機動集団に敵中央部隊の背後に廻って包囲させようと第八艦隊司令部は命じたのだろうが、現時点で第四四高速機動集団の残存戦闘可能艦艇数は一五五六隻。半包囲するように陣形を広げたらあまりにも薄くなりすぎ、敵の予備戦力により容易に防御・突破され戦局はより泥沼化する。

「艦砲の有効射程距離がもう少し長ければ」

 砲撃指示の合間に思わず零れたであろうモンシャルマン参謀長の独り言を、俺は聞き逃すことができなかった。敵中央部隊の総数は未だ一万隻を超えている。幾ら右側面を突いているとはいえ、ヴァルテンベルク艦隊とは数においても占有空間の広さにおいても比較しようがない。適切に砲撃をしても、数によって穴埋めされてしまう。入れ食い状態と言えばいいが、参謀長の零したように有効射程がもう少し長ければ、その増援先に、または予備戦力の移動ルートに火力を集中させ、もって敵戦力の分断を容易にすることが可能だ。

 長い腕や足でアウトレンジできるのは先制的優勢を確保するに利するが、インファイトになった時は逆にそれが不利になる。特に同盟軍の艦艇は基本的に迎撃ドクトリン下の生産性に重きを置いており、帝国軍に比して船体は小型で、核融合炉も燃料タンクも小さい。一概に宇宙空間戦闘においてそれが不利であるわけではないが、余裕がないのも確かだ。

「閣下」
 このままずるずると消耗戦のチキンレースになるか、と溜息をつきそうになったところで、今さっきまで席を外していたモンティージャ中佐が爺様に駆け寄ってきた。
「第八
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